NO.6
半永久的な眠りについた娘が眠ってから3年が過ぎた。
「夢をみてたい」
娘が私にそういった時に止めなかったのは、その背に負った大きな傷をよく知っているからだ。
3年前の春のよく晴れた日、娘は病室のベッドの上で私にこう言った。
「人がね、生きたままずっと夢を見られる技術があるんだって。」
すごいねぇ、なんて返事をしたが内心ドキッとした。
娘には希死観念に近いものがあることを気づいていたからだ。
「わたしね、生きたいんだ。」
見透かされたような言葉に、つい私は娘の顔を見つめた。
「生きることって辛いんだけど、ここまで頑張って生きたんだから、わたしってこれから楽していいんじゃないかって。」
いつも硬い表情の娘の目の色が少し柔らかく見える。
そうだね、頑張ってるよ。と手を握ると嬉しそうな顔をした。
「よく眠れた日にね、よく夢を見るんだけど、空を飛んでる夢をね。とっても楽しくて幸せな気持ちになるんだ。だから、夢を見てたい。」
その日から3年、娘はまだ眠ったまま。
眠る前、強ばっていた顔は穏やかになり、口元は笑みを浮かべているように見える。
気が済んだら帰ってきますよ、と先生は言うが私は帰って来なくてもいいと思っている。
娘と話すことが出来ないのはこの上なく寂しいが、一度起きてしまえばまた、苦しみと戦う日々が始まる。
娘がたくさんの幸せな夢を見られるように、たくさんの話を聞かせてあげようと思う。
娘が生きられなかったこちらの世界の、楽しくて幸せな出来事を。
#夢を見てたい
1/13/2024, 12:37:33 PM