「私の当たり前」
ウピはずるい。
まずなんたって実家が強い。「ニシキマグロ」の氏族だから、財産持ちだ。すごく広いタロイモの畑を持ってて、収穫期にはその畑周りを3重に飾りで囲っている。うちなんか中くらいの畑しかないのに、飾り1重がやっとだっていうのに。
採れたタロイモを畑に積んで見せ合う時も、ウピの家のは一番高くまで積まれてるし、大きくて黄色みの強い立派なタロイモを作っている。その上、「帆掛鳥」や「ウソロ木」の下位氏族達から上納される分のタロイモまであるんだから。
そりゃあ、あれだけあったら魅力的な太い腹回りを維持するのだって簡単でしょうよと思うし、あんなに沢山の赤光貝を贈られるのだって当たり前だと思う。別にあの子本人がすごいわけじゃない、ただ運がよくて、親に恵まれただけ。
沢山の呪術を知ってるのもそうだ。あれだって親戚に医者がいるからってだけ。本人の努力も、そりゃあちょっとはあるかもしれないけど。でも私だって医者の親戚がいたらあのくらいは出来ると思う。
私が呪術をあまり知らないのも、良い赤光貝を持ってないのも、細い腹回りなのも、私のせいじゃない。私だってもっと太く魅力的な外見になりたい。皆が羨む物を持ちたいし、賢くなりたい。いつも誰かと比べて自分にがっかりするのは惨めだ。自分が嫌い。私を勝手に評価して見下すやつも嫌い。頭が悪いとか、外見がいまいちとか、なんの権利があって私をジャッジするの?って思う。それを全然言えないで、笑って誤魔化しちゃう自分が本当に嫌。ここから逃げたい。ここじゃないどこかに。私が賢くないことも、美しくないことも忘れられるどこかに。今の自分を全部捨てて、誰も私のことを知らない場所で一度リセットしてやり直したら、上手く行くんだろうか。そうしたら私は、やっと私のことを許して、好きになれるんだろうか。
7/9/2022, 5:59:01 PM