#お嬢と双子 (NL)
Side:Miyabi Obinata
冬は長袖のセーラー服でも夏は半袖の丸襟ブラウスにジャンパースカートが当たり前のお嬢様学校に通っていたワタシは、今まで半袖のセーラー服を着たことがなかった。
しかし7歳年上の元許婚が別の女性と婚約してくれたおかげでワタシは自由を手に入れ、こうして人生初の半袖のセーラー服に袖を通す夢が叶った。
そして今日が、半袖のセーラー服での初めての登校日だ。
「帯刀さんおはよ〜!」
「…おはようございます」
転校してきたばかりの時に比べると、クラスメイトの方々に話しかけてもらえることが増えたような気がする。
これぞワタシの求めていたハイスクールライフ。
これぞワタシの求めていた「普通」の女子としての日常。
お嬢様学校では得られなかった心の栄養で、ワタシの心は潤いまくっている。
…ただその一方で、潤い過ぎでもあり…。
「帯刀先パーイ!おはざーっす!」
「おはようございます、先輩」
「あら…おはようございます」
…成見兄弟。身長のことで変な絡まれ方をされていたワタシを助けてくださった、双子の殿方。
コンプレックスを褒められ慣れていないワタシは彼らを見ると何故か胸がざわつくようになってしまって、だからワタシは平静を装うためになるべく彼らと深く関わらないようにしてきたつもりだった。
ただ…彼らはそれでもワタシと距離を詰めてくるので、ワタシの心は潤いすぎて常にキャパオーバー寸前だ。
「半袖の先パイも可愛いっすね!」
「…そう…ですか?」
…ああっ、こんなに真っ直ぐに褒められてしまっては…ワタシ…いつか爆発してしまいます…。
お2人はきっと知らないでしょう、ワタシの表情筋は全く仕事をしていないのにワタシの頭の中はこんなにうるさいことを…。
ワタシは高鳴る鼓動を抑えられず、無表情のまま彼らから視線を逸らした。
「…先輩?」
「…すみません。嬉しいとは思っているのですが…褒められ慣れていないものですから」
「先パイ、もしかして照れてるんすかっ!?」
「それは…ないですね」
…ウソです、めちゃくちゃ照れてます…っ。
ワタシの脳内で複数のワタシが天使と悪魔の如く論争を繰り広げている。
まるであるワタシが「素直に照れていると言ってしまいなさい!」と言っていて、あるワタシは「このまま言わないでいたほうがいい!」と言い、それぞれがワタシの表情筋の制御装置を奪い合っているかのよう。
結局、ワタシは無表情のままで心の声を誤魔化すことにした。
今はまだ…ワタシの気持ちには気づいてほしくない。
「へへっ、じゃあオレがこれから先パイのこといっぱい褒めますね!」
「…え?」
「俺も褒めます、先輩のこと」
「いえそんなお気を遣わせるわけにはいかないのでお気持ちだけで」
「ぶはっっ!先パイ早口になってる、可愛い〜!」
…仕方ないでしょう、この距離の近さなんですから…!
ああああ近い近い近い…。
初めての半袖のセーラー服に舞い上がっていただけだったのに、彼らはまた距離を詰めてきた。
胸がさらにざわつく。
お2人ともワタシの心の奥にぐぐっと入り込んでくるのが分かる。
それでもワタシはまだ、この気持ちに気づいていないフリをする。
素直になりたいけどなれない本当の自分を、可愛いセーラー服で隠して。
【お題:半袖】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・帯刀 雅 (おびなた みやび) 高2 お嬢様学校から転校してきた
・成見 椛 (なるみ もみじ) 高1 楓の双子の兄(文面がうるさいほう)
・成見 楓 (なるみ かえで) 高1 椛の双子の弟(文面が静かなほう)
5/28/2024, 1:25:13 PM