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「オシャレしたいけど…」

とある学生は、駅で電車が来るのを待っていました。電車が来るのを今か今かと待っていると、一人の中年女性が学生に話しかけました。

「あら!素敵なお召し物ですね。どこで買われたのですか?」
「…ファストブランドですけど」
学生が中年女性にそう言うと、中年女性の表情が曇りました。

「…いつ、ご購入されたのですか?」
「高校入学の年だから5年くらい前ですけど…」
学生は、変な質問をして来る他人に警戒心を持ち始めました。
「なら、良かったです。お洋服、大切になさって下さいね!」
中年女性は、そう言うとどこかへと行ってしまいました。

「君、大丈夫だったかい?」
学生の隣に居た中年男性は心配そうでした。
「あの人は環境保護団体の職員だよ。新品の服を着ている人を見つけると注意し回って行くんだよ」
中年男性は、言い争いを起こしている職員とティーンの女性達の方を見ました。

「ちょっと!警察呼ぶよ!」
「あなた達は間違っています。環境保護の為にも、その自然を犠牲にして作られた新品の服を脱いで、環境に配慮した服を着て下さい!」
「ダサい古着を着ろっての?!」

「…注意は大声だから、本当に迷惑だよ」
中年男性は苦い顔をしていました。
「今は、お洒落したら叩かれる時代ですもんね…」
学生は難しい顔をしていました。
「昔は、オシャレはステータスだったけど、見栄えの良い服を皆の手に届く様に安く作ろう思ったら、綿花や石油や動物の毛を大量に作らなければならないし、それらを作る過程で大量の真水を消費するからな。生地を染める染料もそのまま川に流してるって話だしな」
中年男性は学生に説明しました。
「真水って飲める水の事ですよね?それに、そのまま川に流してるって…」
「服の生地を作っているのは、建物が整備されていない発展途上国が多いんだよ。ろ過装置の建設技術が無いから使った染料はそのまま海にダダ流しだ。それに、海水では陸上の植物は育たんからな」
「おじさん、詳しいですね」
「小難しい話を長々とスマンかったな」
中年男性は頭をかきました。
「とにかく、あの人らは新品の服が環境汚染の元だと主張しとるから、買ったばかりの服を着る時は気をつけるんだよ」
中年男性はそう言うと、学生が乗らない電車に乗って行きました。

「環境も大切だけど、行き過ぎた主張は争いを生むだけで迷惑なんだよね。今の時代、着飾りたいならアバターアプリがあるし、現実の服は売れない服や古着でも良いと思うんだ」
学生の目的の電車が来て、学生は乗って行きました。

1/28/2022, 8:48:35 AM