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「あぁ~、癒やされる。」

とある平日の夜九時半頃。
ゆったりとした湯船に浸かり、お湯にぷかぷかと浮かんでいる柚子を指で啄きながら、散々だった一日を振り返っていた。

朝は寝坊して遅刻して先生に怒られ、クラスで笑われ。

慌てて家を出てきたものだから、昼はお弁当を持ってくるのをすっかり忘れ、財布も中身がジュース1本分しかなく、パン一個買えずに食べられず。

帰り道こそ何もなかったものの、家に着いてさっさと自室に向かえば隠して置いた人には見られたくない本が机の上に堂々とある。もう、少し泣いてしまった。

そのまま不貞寝をしたら、夕ご飯を食べ損ねた。

もう、何も言う事はない。
人生、割と諦めが肝心だ。

そんな微妙に悪い日だった今日の、
沈みに沈んだ気分を癒してくれたのが『ゆず湯』だった。

頭と体を洗い、湯船の中に入る。
すると、ふわりと柚子の柑橘系特有の爽やかで、少し甘い香りがした。

その香りに、落ち込んでいた気分が少しマシになる。
ネガティブだった考えも、明るくなる。

「…明日は早起きしよう。」

ポツリと呟いた言葉は、お風呂に、溶けていった。

12/23/2023, 2:07:54 AM