三日月
あの日、彼は飛び立った。
月夜の真下で、大空に。
世間はこう言う。
「苦しいことがあったなら、言えばよかったのに…」
「可哀想…」
「人が心配しているのがわかっているのか?…」
彼は返す。
「言えなかったからだよ、偽善者が…。」
「可哀想だと思うなら助けろよ…。」
「心配なんて、ただの期待だよ…。」
私は言う。
「最初から何も無かったら良かったのに…」
「天国はどんな所かな…?」
「もし、貴方と共に死ねたら…!」
彼は返す。
「君と僕だけいれば良かったんだ…」
「君と、一緒に行きたかったよ…?」
「僕がまだ、生きる気力があったら…!」
もう彼は戻ってこない。
あの透き通った瞳も。
優しく暖かい声も。
細く白い身体も。
もし、私に出来ることがあれば、何でもやります。
どうか、神様!
あの三日月のように、彼を楽にしてください…!
「どうか、神様!」
「あの子が楽になれますように…!」
儚い三日月の下。
たった二人の声が重なった。
1/9/2024, 1:41:36 PM