064【力を込めて】2022.10.07
な、なんということだ……みわたすかぎり、地平線の果てまでぷちぷちシートがひろがっているとは。
湯河原国宏が、ランプの魔神の問いかけに対して、「子どものときから、ぷちぷちをつぶすのがどうしようもなく好きだ」ということを想起していたのは否定できない。そして、夢中になってぷちぷちをつぶしていた幼いみぎりの自分を回想して、あれはなんと楽しいひとときであったか、と恍惚としたのもたしかであった。
それらの想念の合間に、刹那、「つぶしてもつぶしても果てが無い無限のぷちぷちが欲しい」という願望がひらめき、よぎっていたとしても、なんの不思議があろう。
しかし、だ。だからといって、それを直ちにかなえるだなんて、そんなヴァカなヤツがいてたまるかよッ!
力を込めて眼下のぷちぷちをつぶしながら、湯河原はいきどおっていた。たのしいかって? たのしくないわけがないだろう! といきどおりながらも夢中になってつぶしていた。とはいえ、どこまでつぶしても果てがこない大量のぷちぷちに、さすがに指が痛くなってきたのも事実である。
ならば、だ。ふたつ目に魔神に願うとしたら、いくらぷちぷちをつぶしても痛くならない指、か?
湯河原は困惑した。困惑しながら、なおも指に力を入れてぷちぷちをつぶしつづけていた。
結局、なんだかんだいっても、つまりは、単純に、ぷちぷちをつぶすのが、好きで好きでたまらなかったのであった。
10/7/2022, 10:38:25 AM