狼星

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テーマ:誰よりも、ずっと #148

深夜の待合室。ドキドキと胸が高鳴る。
チラチラとドアに視線を向ける。
立ち上がったり、座ったり、時計を見たり……。
また、ドアを見たり……。
他の人の視線なんて気にならなかった。
ただ一つの声を待って。
僕は座り、目をつぶってギュッと手を握った。
その時
「オギャー、オギャー」
ドアの向こうから産声が。
僕は反射で立ち上がる。
中から看護師さんが出てきた。
「産まれましたよ。元気な赤ちゃん」
そう告げられた途端、安心で力が抜けた。

「ほーら、お父さんだよ」
汗ばんだ君が微笑みながら赤ちゃんを抱く君は、
もう僕が知っている君よりもずっと強く見えた。
お母さんになったんだなぁ、そう感じる。
視線を落とすと、
顔を赤く染めた小さい顔がそこにあった。
口をパクパクさせたり、
眉間にしわを寄せたりしている。
小さい手や足を無作為に動かし、
何かを探しているようにも見える。
「ほら、あなた。抱っこしてあげて」
そう言って君が僕の方に赤ちゃんを差し出す。
「え、うわぁ……。小さい……。かわいい……」
割れ物に触るときよりも緊張する。
そんな僕を見てクスクスと笑う君。
「も〜……。困ったお父さんね。抱っこしただけでも泣いちゃうなんて」
「だって……。だって……。」
君が頑張って産んでくれた、僕と君の子だから。
この世にたった一人の、唯一無二の子だから。
嬉しくてなくのは当たり前だろう?
僕の方に赤ちゃんが手を伸ばす。
まだ目は開いていない。
その時、病室の窓から光が差し込んだ。
希望の光だ。
誰よりも、ずっと君と僕たちの子を愛しているよ。
どんな日々が未来に待ち受けていたとしても、
僕が君たちを守ってみせるよ。
誓ったんだ。
僕たちの子が産まれたその日に。

4/9/2023, 11:40:50 AM