誰かが私の名前を呼んでるわ。
でも生憎、私今忙しいの。
ある場所へ行かなくてはいけないからね。
名前を呼んでるあれは何者かって?
あぁ、私の下僕よ。
あんなに大声を出して、まったくみっともないわ。
まぁでも、これからはあの下品な声も聞かずに済みそうね。
さぁ、ついたわ。
ここ?そうね…私のとっておきの場所とでも言っておこうかしら。
誰にも見つからなくて、静かで安全なの。
昔この辺りで暮らしていたときは、よくここで眠っていたものだわ。
あぁでも、ここにいる私を見つけたのが一人だけいたわね。
そう、あの下僕よ。
まだ幼かったあれが、私を可哀想な子だと勘違いしてここから連れ出したの。
失礼しちゃうわよね。私はここで休んでいただけだし、ひとりで生きていけないほど弱くもないもの。
でも、もういいの。あれに連れられて暮らした家は、ここよりもずっと広かったうえに食べ物にも困らなかったしね。
それに、ソファを爪でズタズタにしたり、テーブルの上の物を“うっかり”落とした時の情けない声もとても愉快だったわ。
まぁ、情けない声は今も出してるわね。あんなに泣きそうな声を出して、恥ずかしくないのかしら。
さて、そろそろいかなきゃね。
眠くなってきたわ。
…なんでここに戻ってきたのかって?
だって、弱っていく主の姿なんて、下僕に見せられないでしょう?
私は、最期まで気高い女でありたいのよ。
だから、今は一人でいたいの。
じゃあね。
来世も会えたら、また下僕として使ってあげるわ。
【お題:だから、一人でいたい】
7/31/2024, 1:49:42 PM