【ありがとう】
※【バイバイ】の続きです。【やさしくしないで】【誰も知らない秘密】も合わせてお楽しみ下さい!
どれくらい時間が経っただろう。
そっと顔を上げると、見慣れた戦闘服に涙の染みが出来ていた。僕は随分長いこと君の体に縋りついていたらしい。
ふと、頬を拭いながら気付いた。
泣いたのは、いつぶりだろう。
*
感情を押し殺して生きて来た。というか、知らない感情が多いのかもしれない。そう零したら、君はとても悲しそうな顔をした。でもすぐにいつもの顔に戻って、僕を見つめながら言った。
「じゃあ、僕が教えてあげるよ」
「は?」
悪戯を思いついた子供の様に笑う姿を見て、そのときは何を言ってるんだと思った。だって、20年近くそうして生きてきたんだぞ?理解されないことも多かったけれど、僕を理解してくれる人なんて必要ない。
今思えば、そんなのただの強がりだった。
君と出会ってから、みるみるうちに笑う回数が増えた。怒ったり、驚いたり、恥ずかしがったりと、とにかく忙しい日々だった。
でもそれがどんなに幸せで、どんなに特別なのかを、僕も、君も分かっていた。いつの間にか君は、僕の1番の理解者になってくれていた。その事が嬉しくて、でも伝えられなくて。そしてついに、戦争が再開してしまった。
*
ああ、
君は僕に、感情を思い出させてくれたんだ。
この感情を、僕はずっと前から知っている。
悲しみ。
寂しさ。
憎しみ。
それに、感謝。
ねえ、
僕は君の、大切な人になれた?
君の望みを、叶えてあげられた?
もっと早くに、伝えておきたかった。
「…ありがとう」
朱に染まった手をとって、ありったけの想いを込める。
閉じられた瞼から、一筋の光が伝った。
fin
2/14/2025, 12:22:12 PM