Seaside cafe with cloudy sky

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【雪を待つ】

「そんな、まるで雪を待つようなことですよ。もっと着実に進めていきましょう、教授」
そう言って私の若い助手はラボから陽気に出て行った。
「……現実離れしたことを言ったつもりはなかったんだが」
独り残された私は、誰に告げる気でもなく無意識に独り言ちた。
雪を待つ、とは、二十年ほど前から広まったフレーズだ。夢物語、ありえない奇跡、というような意味合いで使われる。そう、もうかれこれ全地球では、二十年以上も雪が降らなくなってしまったからだ。
「仕方ない……もう少し煮詰めるか」
まだ助手は三十歳手前のはず。そんな彼の意見をいれて、再考してみるのも無駄ではないだろう。
幼い頃、現実に眺めた雪景色の記憶をぼんやり蘇らせながら、今年で五十歳ちょうどになる私は、研究課題のデータに没頭していった。

12/16/2023, 5:26:15 AM