NoName

Open App


「今日はあの家が欲しいな」
そんなことを呟くと、その家は僕の物になる。
それが僕の力だ。
でも毎日僕は空虚だ。何か足りない。毎日欲しいものは手に入れている筈なのに。
形あるものでは満たせないのか。
「次はあの女をくれ」
僕はその女と一夜を過ごした。
それでも僕は満たされない。かえって空腹になってしまった。
一体何があれば僕は満たされるんだ。
何をすれば満たされるんだ。
そもそも人間は満たされるのか。
三日三晩考えたが、分からない。
あれ?何だろう、この満足感は。
そうか、僕は思考を求めていたんだ。深い、海の底のような思考を。
仕方がない、もう僕はわかった。
僕は深い海の底へ、沈んでゆく。
目を覚ませば、僕は形のないものになっていた。
こうだ、初めからこうすれば良かったんだ。
自分を形ないものにし、形のない、思考を延々と続ける。
これこそ、僕を満たしてくれる唯一のものだったんだ。
嗚呼、やっと満たされる。僕は海の上に広がる夜空として。
延々と空虚な心を満たす為の思考をするのだ。
これが唯一の幸せだったのだ。

9/25/2024, 7:49:55 AM