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「久しぶり」
それは、ショッピングモールでの買い物中だった。後ろから、急に話しかけられた。
「は、い……?」
歯切れの悪い返しをしながら振り向く。
そこに居たのは小学校、中学、高校とずっと一緒にいた親友だった。
「久しぶり……なんで……」
あなたはーー
出かけた言葉を飲み込む。あの出来事を忘れた振りをして笑う。
「ほんと、久しぶり。どうしたの」
「買い物だよ」
ショッピングモールなんだからそうでしょ、笑いながらあなたは付け足す。
「変わってないね。高校の時のまま」
褒め言葉のつもりだった。けどあなたは、「幼いってこと?!」と頬を膨らます。
あなたはずっとそうだった。面白くて、純粋で、優しくて、クラスの人気者。人に嫌われる要素が一つもない様な子だった。だから、あなたがあんな行動を取ったこと、今でも信じられない。
二人で買い物をして回った。あの頃みたいに。
一通り買い物を終えて、フードコートで食事を摂る。高校生の時よく来ていたフードコートで。あなたは豚骨ラーメンを躊躇なく啜る。その横で私はカレーを食べる。決まっていつもそうだった。だから、あの頃のように、なんでも話し合えれてたあの頃のように私は聞いた。
「ねぇ。どうして自殺なんてしたの?」
「え〜。どうして?うーん。なんとなく?」
はぐらかすよう微笑みながらあなたは言った。
あなたはあの日、確かに死んだ。学校の屋上から飛び降りて。それは、本当に突然で、前日だって「明日、カラオケいこーよ」と翌日の約束をした。だから、本当に何故あなたが飛び降りたのか、私はずっと考えていた。
「なにか、辛い事でもあったの?」
「もー。なにか、なんてないよ。本当になんとなく。てか、せっかく久しぶりに会ったんだしもっと楽しい話しようよ」
いい感じに絆されて私はその話に蓋をした。
そのまま一日が過ぎた。帰り際、私は尋ねた。
「私を、連れて行って」
あなたは真剣な眼差しで私を見つめる。
「あなたが居なくなってから、私の世界には色がない。楽しみがない。今日会えたのだって、そういうことでしょう?お願い。私を連れて行って」
あなたが死んだその日から、私は干物の様な生活を送っていた。私の人生にあなたは必要不可欠だった。だから、あなたが死んで私は空っぽになった。けど、今日まで生きてきた。そろそろいいと思う。また、私に楽しみを、色をくれたって。
「お願い。お願い、お願い。お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願い、お願い……。おね、がい。私を、連れて行って」
「いいよ。けど、今はダメ。」
そういい微笑むあなたはだんだん薄くなって、消えていった。
気がつくと私は部屋のベッドの上にいた。いつも通り、重い体を動かさず横たわっていた。特に何も考えず、ただ、ただ、天井を眺めていた。
「夢……か。」
目尻から温かい何かが伝う感覚があった。久しぶりの、涙だった。
気づくと、その涙は止まらず、大量に、ひたすら目から流れていた。
「うぅ……。会いたい……。会いたいよ……」
一日泣き尽くして、私はまた天井を眺めていた。
本当に動かないと体力は無くなるもので、一日泣いただけで体が動かなかった。けど、翌日の気分はとても清々しくて、久しぶりに外にでた。あなたとの、思い出の場所を巡りに。
一通り回ると、体が自然とある場所へ向かっていた。
それは、あなたが飛び降りた、あの屋上。
私は一歩、また一歩と歩を進める。
そして、屋上からの景色を見下ろす。
「あぁ、なんとなく、ね」

風がすごく、気持ちよかった。

これは、私の少し歪な友情のお話。

7/24/2022, 1:59:32 PM