エリンギ

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【君の背中】
※微薔薇

「おはよう」
朝起きると、隣で君が笑っていた。
「は…?」
どうして。だって君は、
「死んだのにって思ってる?」
視線を写真に向けながら君は言う。仏壇なんて大層な物はうちにはないので、即席でそれっぽい場所を作った。白い百合と好きだったお菓子を前にして笑うその顔が、どんなに恋しかったか。
「会いに来ちゃったっ」
無邪気な声は、まるで不幸なことなどまるでなかったようだった。でも、
「あ」
その背中には、美しい羽が生えていた。よく見ると頭の上には、天使の輪らしき物が浮かんでいる。それらが確固たる証拠として、君が存在しないことを訴えてくる。
「ふふ、似合ってる?」
似合っているけども。何度天使と思ったか分からないけども。
「僕さ、幸せだったよ」
不意に遠い目をして、君が言った。
「一緒に過ごせただけで、本当に幸せだった」
「でも、俺のせいで、」
あの日の光景が思い出される。俺が横断歩道で落としたハンカチを拾ってくれていたとき、信号無視のトラックが突っ込んで来たのだ。
「違うよ、そんなことない。」
滲んだ視界の中で君は、強い眼差して言った。
「大好きな人と沢山の思い出を作れたから、感謝しかないよ。本当に、ありがとう」
あ、時間みたい。
半透明になった君の背中には、純白の翼が輝いていた。

fin

2/9/2025, 11:58:25 AM