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20230523【昨日へのさよなら、明日との出会い】未完

※注意※異世界幻想創作短編。



 肩から落ちかけた鞄の紐をすんでのところ掴まえ、ホッと息をつく。父から継いだ物は、なるべく汚したくなかった。もう何度も繕い、縫い目だらけではあるが。

 ふと何か聞こえた気がして、赤土のはだけた道を振り返る。

 ただただ、幅が広いだけの乾いた長い公道が続いている。せっかく植えた脇の街路樹も栄養が足りずに、長い間、貧弱な姿を晒している。雨の乏しい荒野の端で、得られるものは少ないだろう。

 「どうした」

 低く響く男の声に、ハッとする。

 歩調の合わない旅の共が、道の先からこちらを目を細めて見ている。切れ長の目が更に細くなってるを見て、いずれそのまま一本線になってしまうのではないかと、時々、空想しては心の中で密かにほくそ笑んだ。

 「なんだ?」

 男の眉根が寄ったのに気付き、慌てて答える。

 「何だか、声がした気がして。いや、やっぱり空耳かも。気にしないで」

 始まったばかりの声変わりで早口に話したため、妙に上擦った可笑しな声が出て喉を抑える。埃も吸ったのか、咳が出た。

〜続

5/22/2023, 6:16:41 PM