水曜日。中日だった。
この日はいつもイライラしている。
普段より仕事の量は多いし、偵察任務だって念入りに行う日だった。
そのせいか、リーダーの機嫌も戦闘機で奇襲をしかける時の軌道の如く降下しがちだ。で、そうなると、その機嫌の悪さは八つ当たりという形で俺達部下に降り掛かってくる。全くもっていい迷惑だ。
今日も今日とて、声を荒げながら任務時の問題点を捲し立てるリーダーを宥めつつ、ぐるりと辺りを見渡す。仕事の内容が違うのだから当然と言えば当然のことだが、あの巨体は、見当たらない。
それを認識した途端にスパークのある辺りがズンッと重くなったような錯覚を覚える。ブレインが曇りがかったかのように思考が鈍り、普段なら言えるはずのスタースクリームを宥めるセリフでさえも上手く吐けなくなってしまう。
(こりゃ、今日は酷いな)
まるで他人事のように思いながら、静かに部屋を後にした。
後ろでまだなにか言っている声が聞こえたが、今はそれをキチンと聞ける自信がない。
たまにあるのだ。こうして今日は何もできないと思い込んでしまう日が。
いつもならひと目見るとウンザリするくらいこちらに絡んでくるあの姿をふと見かけなくなる日が。
そのことに、どうしようもなく、スパークを締め付けられるように感じる日が。
(そういや、今日は曇ってたな)
偵察に赴いた地の天気を思いだす。鈍色の雲が重く垂れ込めた空は、正に今の自分を表しているかの様で。
(…クソ)
誰に言うでもなく、内心悪態をついた。
薄暗く冷たい通路を歩く。
唐突に背後から静かな、しかしそれでいて憎らしい程にはっきりと聴覚センサーが捉えられる声がしたのは1本道の通路の終わりまで来た時だ。
「よぉ、サンダークラッカー」
あの声が、聞こえた。たった一言だった。それだけ。
「……あ」
背中に降りかかる声を聞いた瞬間、重く曇っていたスパークが少しだけ軽くなる。
それはまるで雲間から眩い日の光が差し込んできたかのようだった。
背後を振り返りながら、サンダークラッカーはまたも偵察地の天気を思い出した。暗く曇っていた空。
しかし、天候はそれだけでは終わらなかった。
その後、曇り空の隙間から、太陽の光が一筋差したのだ。憂鬱な水曜の午後。気持ちが楽になった気がしたことを覚えている。
まさに今の状況にそっくりじゃないか。
たったの一言、ただ名前を呼ばれただけ。
それなのに、こんなにも、浮ついてしまうとは。
なんとも単純なものだ。
「はぁ、なんですか」
なんだか可笑しく思えてきて、口元を微かに緩ませながら、気のないフリを装うセリフを口にしながらサンダークラッカーは、自分に向かって差し込む光とその影に向かって、歩きだした。
お題『今日の心模様』
4/23/2024, 4:05:50 PM