汚水 藻野

Open App

「待って!!その人は違うの!!お願いだから、お願いだから連れて行かないで!!」

あなたはわたしにはじめてやさしくしてくれたひとだった。

暗い深い闇から手を差し伸べてくれて、狭く孤独な監獄から救い出してくれたのはあなただった。
わたしはあなたと一緒に入れればそれでよかった。たとえあなたが、人殺しだとしても。

住んでいた村に、あなたが人殺しだと判明してしまった。わたしは助かった。あなたは助からなかった。わたしと同じ、暗い深い闇に呑まれていくんだな。そう思うと、冒頭のように叫んでしまうのだった。

「あなたがいてくれたからっ、わたしはたすかったの、今度はわたしがたすけないと、意味が無いの、あなたが、あなたがいなかったら、

わたしはどうしたらいいの…?」


「君はいつか、僕じゃない誰かを助けてね」
「それが僕からのさいごのお願い」

あなたは眉を下げて困ったように笑う。
わたしの涙は、意思と反対に溢れてくる。

「…あなたがいてくれたからっ、あなたのおかげでわたしは生きることができたの、だからっ、わたしから、あなたに、」



「「ありがとう、だいすきだよ」」



_2023.6.20「あなたがいたから」

6/20/2023, 12:38:09 PM