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ハッピーエンドを迎えたならば、きっと他の誰かはバットエンドを迎えているのだろう。みんながハッピーな世界は、なんというか宗教的な禍々しさを感じてしまう。
「そんな訳ないじゃない。禍々しくなんてないわ、みんなが笑顔で最後を迎えるなら、それが一番幸せでしょう?」

世界に突如として現れた笑顔をこよなく愛する宗教。
「幸福正義協会」皆がハッピーエンドを迎え、常に笑顔でいることを正義とするその考え方に、僕は反対した。

「…確かに、人は楽しかったりすると笑顔になります。でも、それを正義という概念で縛っていいってもんじゃない。それに、人が人として成長するには、楽しい以外の感情を、ハッピーエンド以外の結末を知ることも必要なんです」
「分からないわ。楽しい事、好きな事を永遠にしていたい。笑顔の絶えない未来を築きたい。そう願ったのは、紛れもない私たちでしょう?」
「そう…ですね。楽しい時は一瞬で過ぎ去ってしまうことに苦言を呈したこともあります。でも、その時に留まっていては、一向に前に進めませんよ。家族と、恋人と、友達と、ライバルと、苦楽を共にして、成長するのが人生ってものの醍醐味じゃないんですか」
「…矛盾してるわ。」

その言葉を待っていた。思わず、僕の口角が上がる。

「分かっているじゃありませんか、あなたも。そうです、矛盾だらけなのです。人なんてそんなものです」

背中に隠したナイフを構える。

「僕は言いました。人は楽しいと笑うと」

「…ねぇ、あなた今、何が楽しくて 笑ってるの? 」

「知っていますか。人は、悲しくても、笑うんですよ」
構えたナイフで、死角から女の腹を突き刺す。こんな宗教、広まってたまるか。人が笑顔になるのが正義だと?
違う、間違っている。人は悲しい時だって、例えば心配かけまいと、例えば誰かの為に、笑顔を尽くす。

「悪役として、バットエンドを迎えるのは、僕だけでいい」
誰かの、ハッピーエンドを守るために。

#ハッピーエンド

3/29/2023, 11:56:33 AM