【大好きな君に】
知ってほしくなかったことがある。
家も隣。幼稚園も一緒。学校の席が隣。帰り道も隣。
隣にいたから、わかるんだ。
夜、コンビニでアイスをひとつだけ買って家に帰ったこと。後ろでうめき声と、君の髪の色がひらめいたこと。
それを私が態と見逃したこと。
学校の成績が悪いこと。
君は必要だと言えば毎度つききりで、ひとつひとつ教えてくれた。
その答えがところどころ間違っていたこと。
最初は正しい教え方だったのに、だんだんと間違いの方が多くなっていったこと。
それを私が理解し、受け入れていたこと。
ラブレターが何通も届いたこと。
下駄箱にも家にも机にも、まとめてみれば段ボール2個分くらいにはなりそうだった。
"好きだよ、大好き"
一辺倒で芸がない。
初めは嘘だと断じたが、どうも本気らしかったこと。
知らない名前、知らない筆跡のように見えた。
"この人と付き合おうかなぁ"
いつも嫉妬する君が少し微笑んで何も言わなかったこと。
だけど、私は君が両利きなことを知っている。
お母さんに怒られていたこと。
いつも罵声と掌底が私の頬に飛んでいたこと。
主に、学校の成績が怒りのいい燃料だった。
間違いだらけの答案を引き裂く音が、君に聞こえてなければいい。
変に赤くなった頬に、次の日跡が残っていて。
机に突っ伏して、寝たふりをしたからついた跡だなんて下手な誤魔化しが君にバレていなければいい。
隣の家から聞こえる笑い声が、心底皮肉に聞こえたこと。
君に恋していた人がいたこと。
そして私がそれを、相応しくないと蹴散らしたこと。
鉄パイプ持って、うめき声の上で髪を揺らした夜風が心地よかったこと。
ただ、ただ。
一緒にいていちばん楽しくて、大好きだった君がだんだん変わった。だから、一緒にいるのが辛くなった。
でも大好きだ。大好きなままでいたいから、大好き。
だから、さよなら。
耐えられないから、逃げさせて。
大好きな人。
夢の中だけでいい、私をずっと置いていて。
─────君が私の代わりに轢かれて眠ったあの日から。
私は夢を見ないまま。
3/4/2026, 11:38:43 AM