ピアノの練習をした、と君は言っていた。
きっと、君の部屋自体にはかちり、かちり、と鍵盤を押す音だけ響き渡る。代わりに、ヘッドホンから真夏日のプールみたいな爽やかな音が流れているのだろう。
それを演奏する君は、さながら木陰を舞う光の粒のように美しく、どこか儚かったに違いない。
長いまつげは軽く伏せられ、一心に電子ピアノを見つめる瞳は真剣で、それでも射し込む西日が強く明るく君を照らしていたのであろう。細い指は柔らかく白をなぞり、黒をなぞり、リズミカルに跳ねる。まるで、魔法のようだ。
ねえ、いつかイヤホンを着けて演奏してくれないかな。君の奏でる音楽を、片耳だけでいいから聴きたいんだ。
8/12/2023, 1:56:27 PM