みらくるチョコレート Twitter→@mirachoco0424

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「私、マサトくんが大好きです。」
 そう言われた。少し肌寒い、星が綺麗な夜だった。
「少し考えさせてくれ。」
 俺はそう答えた。彼女は少し悲しそうな顔をした。
 翌日俺は彼女に返事をした。
「俺で良ければ。」
 彼女は嬉しそうな顔をして
「ありがとう。」
 と言った。

 それからの毎日は凄く凄く楽しかった。ただ俺は彼女の名前がどうしても思い出せなかった。でも自然に俺は彼女の名前を口に出して言えてる。多分……。彼女も別に気にしてないし、まぁいいか。

 だがそんな毎日は、唐突に終わった。彼女が行方不明になったのだ。星空の下、まるで神隠しにあったかのように、スッと消えた。
 俺はすぐ警察に行った。だが警察はちゃんと向き合ってくれなかった。俺は途方に暮れ泣く日々を送った。親にも相談したが親は「大丈夫、大丈夫だよ」とだけ言った。

 そして今日、俺は彼女が消えた路地に行った。時刻は夜の9時。空では星たちが煌めいていた。
「マサトくん……」
 彼女の声が聞こえて俺は振り返った。そこには彼女がいた。
「どこに居たんだよ。俺は本当にお前の事を心配し」
「あのねマサトくん。私マサトくんの事本当に大好きなんだ。」
 彼女は俺の言葉を遮ってそう言った。
「でもね、私はもう幸せだよ。マサトくんのおかげで毎日がとっても楽しかったよ。だから、現実を見て。マサトくんが私に囚われて生きているなんて辛いよ。」
「はぁ?お前何言ってるんだよ。」
「いい加減思い出してよ。3年前の事故の事を!」
 そう彼女に言われて、頭に衝撃が走り、同時に3年前の事故の記憶が蘇ってきた。

──3年前
「マサトくん口にクリーム付いてるよ。」
「あぁ、ごめんごめん。」
 俺と彼女は、信号待ちをしながらそんな他愛もない会話をしていた。
「全くもぉ。マサトくんは急ぎすぎ。」
 そう言って彼女はハンカチで俺の口元を拭いた。
 信号が変わり俺たちは歩き始めた。1歩、2歩、3歩……。あと少して向こうに着く。何気ないただの横断歩道。だったのに……。
「マサトくんっ。」
  ドンッ
 俺は彼女に押され、尻もちをついた。その途端彼女は赤い車に跳ねられた。暖かい昼下がりのことだった。
 シンと一瞬静まり返ったあと、すぐに騒ぎになった。誰かが叫ぶ声、救急車を呼ぶ声、俺はただ見ている事しかできなかった。
 救急車のサイレンで俺は我に返り、思いっきり彼女の名前を叫んだ。
「あずさぁーーーーーーーーっ!」

 そうだ思い出した。彼女の名前も、あの事故の事も。あずさはあの時信号無視の赤い車に跳ねられた。
「そうよ。私はあの時車に跳ねられた。けどマサトくんはその時の辛い記憶に封をして、まるで私が居るかの様に3年間過ごし続けた。」
 そうあずさは言った。
「そうか。俺……。何で忘れてたんだろ。あずさの事大好きなのに。あずさ……。ごめん、ごめんよ。」
「いいのよマサトくん。思い出してくれてありがとう。今こうして話しているのは、マサトくんの中の私。マサトくん自身が、私を思い出して、そして前に進もうとしているの。」
「俺自身が、前に?」
「そうよ。でも、もうすぐ行かないと。」
「何で、何でだよ。俺の記憶のあずさでもいいから行かないでくれよ。俺を1人にしないで……。前に進めなくてもいいから。お願いだよ。」
「分かってよマサトくん。これは私じゃなくて、マサトくんの本当の心、本当の思いが決めた事。マサトくんが前に進むには、私は行かないといけないの。」
 分かってる、そんな事。分かってるんだ。でも離れたくない。
「これは私の願い、そしてマサトくんの願い。マサトくんは強いから大丈夫。」
「あずさの願い……」
「そう私からの願い。私の最後の願い叶えてくれる?」
 最後。その言葉が胸に深く刺さった。
「分かった。」
 いつの間にか、そう俺は口に出していた。
「ありがとうマサトくん。ずっと大好き。」
「俺も。だからあずさの最後の願い絶対に叶えるよ。」
「やっぱりマサトくんは強いね。」
「当たり前だ。」
 俺は涙を拭きそう言った。
「じゃあね。私マサトくんと居られて幸せだったよ。」
「俺もだ。」
 あずさは嬉しそうな顔をして光になって、消えた。
 冷たい夜の風が涙の後を冷やした。
「あずさ。本当に大好き。一生愛してる。」
 俺はそう言って家に向かって歩き出した。
 

4/6/2023, 6:36:30 AM