狼星

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テーマ:麦わら帽子 #271

向日葵畑の空の上から麦わら帽子が飛んできた。
「すいませ〜ん」
オレが拾うと右の方から女性の声が聞こえてきた。
向日葵畑から一人の小柄な女性が顔を出す。
「すみません。ありがとうございま……」
その女性はオレを見てぎょっとした。
ぎょっとされるのも無理ない。
オレはよく目立つ。
なぜならオレはヤクザ。
「あ、サーセン」
オレはすぐに麦わら帽子を差し出す。
まただ。
なにか言われる。
さっさと持って何も言わずに行ってくれ。
心のなかでそう思っていた。
「あの、サングラス似合ってますね」
「……え?」
女性から出た言葉は思っていた言葉と違った。
「あ、ありがとうございました」
麦わら帽子をオレから持って、去っていく。
持っていく時、小さく笑った顔が可愛くて。
「また、会いたい……」
ヤクザなオレでも普通に接してくれる。
それが嬉しかった。

「観光バスツアー行きのお客様はこちらに―」
ふと見るとそこにあの女性がいた。
「あ」
思わず声が出てしまった。
きっと聞こえていなかったけど。
バスに乗り込んでいる彼女が見えた。
気づかれないように。
不自然じゃないように近づく。
彼女がこっちに気がついた。
小さく手を振っている。
か、可愛すぎる。
オレも周りの人に気が付かれないように
小さく手を振った。

これは
名前も知らない麦わら帽子が似合う女性に惹かれる
ヤクザの話。

8/11/2023, 11:35:40 AM