ヨル

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夕日が完全に沈む瞬間とか、線香花火の落ちる瞬間とか、夜空に輝く流れ星とか。小さい頃からそういった刹那の情景が好きだった。
それとは逆に長ったらしい映画や文字の細かい小説、休み時間の教室で行われる意味の無いおしゃべりが嫌いだった。
ダラダラとした刺激のない人生が嫌で、今この瞬間の輝きを追い求めて一所にとどまらない生活を送ってきた。先のことなんか分からないけれど今が楽しければそれで良かった。
君に出会ったのはそんな時。君は読書が好きで、意味の無いおしゃべりも大好きな人で。僕は最初「つまらない人だ」って、そう思ったのに。君のほころぶような笑顔に僕は一瞬で恋に落ちた。君といる時間はどれも大切で、一秒たりとも逃したくなくて、こんな時間がずっと続けばいいって僕らしくないことを思ったりして。
なのに君は僕を一人残して遠くに行ってしまった。
「貴方は刹那的に生きる人ね」
君はそう言ったけど、君の方が、僕を置いて消えてしまった君こそが『刹那的な人』だった。痩せ細ってもう先も長くない身体なのに君が
「私、貴方好みの女でしょ?」
なんて出会った頃と変わらない笑顔で微笑むから、僕は君といる時だけ『刹那』が嫌いになった。
君が最後に言った言葉を今でも覚えている。
「たくさんのものを見て、たくさんの人と関わって。そうして集めたたくさんの思い出を抱えてまた会えたら、次は貴方がおしゃべりする番よ。私、ずっと待っててあげるから。抱えきれないくらい持ってこないと許さないんだから」
その後すぐに君は旅立ってしまった。

君がいなくなってしばらくは希望も光も感じられなかったけど、君と交わした最後の約束のために今は色々なものを見て、聞いて、体験して生きてるよ。
いつか君と再会した時、約束通り今度は僕がたくさんお話を聞かせてあげるから。

だから君はその時を、読書でもしながらゆっくり待っててね。

4/29/2024, 1:05:01 AM