「海の底まで沈んだらさ」
酷く鳴き喚く蝉の合唱を背に、ソーダ味のアイスキャンディーを齧った君が口を開く。
「死んじゃうね」
「なに当たり前の事言ってんだよ」
にんまりと笑う君の言葉に呆れて肩を竦めると、君は溶けかかったアイスをぺろりとたいらげてこちらを見つめる。
「でも、気にならない?海の底から見上げる空ってきっと綺麗だよ。あたし、生まれ変わったら人魚になりたい」
それで、それでね。
「陸に上がって来世でもきみを見つけに行くんだ。絶対、ぜーったい。あたしはきっと何度だってきみに恋するよ」
「......馬鹿か」
あっ!酷い!という君の言葉を背中に受けて、さっさと家に続く道を歩き出す。そしたら君は怒りながらも追いかけて来てくれるんだ。
「生まれ変わったら人間になるって約束したろ」
こちらとら、自らの足で追い掛けて来てくれるその姿を、生まれ変わる前から望んでいたんだ。
海の底なんて、君にはもう必要ないだろう。
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1/20/2024, 2:27:08 PM