夏野

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終わりなき旅


天秤に乗るのは、いつだって自分の命である。
ついでに、何かが起きる時は、だいたい唐突で、心の準備なんてする時間はない。

「おい、逃げるぞ。早く準備しろ」

言われれば慌てて飛び上がって、荷物を背負う。リュック一つが、わたしの全財産。それ以上は持てないし、持っては行けない。
最初はどうしても手放したくなくて、大きいボストンバッグも持っていたけど、気づいた時には手放していた。
相棒となった男は決して自分の荷物以外は持たないし、わたしは体力と腕力が足りなくて、ずっとは持っていられなかった。
荷物より、命が大事。
その次に、お金で、食料。
今のわたしをお母様が見たら泣くだろうな。

先行する男の後ろを追う。
廃墟の街中をジグザグに進むので、もうわたしには方向が分からない。
「何が、あったんですか」
男がチラリとわたしを見る。美形は無表情だと怖い。
「イカサマがバレた。捕まると面倒だ」
「……そうですね 」
「安心しろ、金は回収出来た」

さすが詐欺師、と言えばいいのか悩む。
それとも、お金があって重畳、とでも言うべきか。

わたしは男のことを知らない。
男はわたしを知っている。そして目的は同じだと言った。
ならば、どうなろうが構わないと思った。

王女、と呼ばれたわたしが普通に、平民として生きれるような場所にいつ辿り着けるのだろうか。

終わりの見えない道を、とても胡散臭いけれど、唯一信じられる人と旅をする。

終わりなんて来なければいいのにね。

5/30/2024, 3:27:39 PM