NoName

Open App

「たすけてくれぇー!」
 私は声を上げながら、満開の桜並木の道を走っていた。
 今にも雨の降りそうな曇天の下、雪のような花弁が舞っている。
 背後からは陸生の蛸が迫ってきていた。
 人一人を余裕で呑み込んでしまえそうなくらいの大きさの巨大蛸である。

 にょろにょろにょろにょろ……。

八本の脚を目まぐるしく動かして猛スピードで進んでこちらに迫ってくる。
駅前の目抜き通りだというのに私の他に人影は無い。
無理もない。もはやあらゆる人間の文明は蛸に駆逐されつつあり、

9/24/2024, 5:04:25 AM