安らかな瞳を覗き込む。
そして椅子に座る少女に語りかける。
『サキ、今日の裁判も疲れたよ』
『今日はね、大臣の息子をね……』
そう語りかける彼はただ人形に語りかけていた。
それでも彼には聞こえる。
『え〜っ!すごいね、パパ!』
『ふふ、もう、パパってばおっちょこちょいだなぁ〜』
そんな声が。はしゃいだ娘の返事が。
周りから奇異の視線を向けられたとしても。
彼には娘との時間が何よりだったから。
焼け落ちた屋敷から見つかったのは
孤独な男の亡骸と
焼け焦げた少女の人形。
人形の瞳は安らかだった。
眉間から血を流す彼の瞳には
安らぎなど感じなかったが。
【安らかな瞳】
3/14/2024, 12:52:57 PM