083【愛言葉】2022.10.26
これは俺がとあるアプリをインストールしたときの話だ。都市伝説のような話だが、本当のことだから、まあ、ひとつ聞いてくれ。
そのアプリは、プライベートなことをあーだこーだしたり、ポイントをどーのこーのして使うアプリだったので、ニックネーム、メアド等を登録して、アカウントを開設する必要があった。ということで、俺は、要求されるままに、まずはニックネームを登録した。え、どんな名前にしたかって。聞くなよ。恥ずかしい。どんな雰囲気の名前かも、秘密だよ。それから次に、メアドも登録した。セキュリティは気をつけないといけないからな。こーゆーとき専用のメアドだ。さらに、パスワード。コイツの登録は、鉄板中の鉄板……と、思いながらよく見たら。
な、な、……ナンジャコリャ?
【愛言葉】
俺は目が点になった。目が点になるというのは、なかなか上手い比喩だとずっと感心しながら、そうだな、かれこれ二十年は生きてきていると思うが、まさかホントにそうなるものなのだとは、ついぞこの時まで知らなかった。俺の目は、確かに本当に点になった。それは説明し難い感覚だった……アンタらも一度なってみたら分かるよ。
「合言葉」ならまだ分かる。なぜ「愛言葉」なのだ。しかも、【平仮名で三十一文字まで】って漢字で注意書きに書くなよ。短歌かよ。
とりあえず俺は、なんか人物名でも入れてみることにした。そうだな、俺の中でいま一番面白いドラマは「鎌倉殿の13人」だから、主人公の、
「ほうじょうよしとき」
えいっ、コレでどうだ!……と意気揚々とエンターをタップしたら、いきなり怒られた。
【そこに愛はあるんか?】
誓って言う。俺は、ア○フルのなにかをインストールしたわけでも、ア○フルの回し者でもない。とにかく、ポップアップがでてきて、一喝されたのだ。だけど、うん、そうだよ……北条義時、この数回できゅうに闇落ちしたんだよ。血も涙もない、っていうのは、まさにいまのアイツのこと……たしかに、いまの義時には愛がない。
ならば、愛があるヤツならいいんだな、愛があれば。俺は、むかつきながら、こう入力した。
「ろみおとじゅりえっと」
えいっ、こんどはどうだ……これで文句はあるまいとエンターをタップしたら、
【これを愛言葉に登録しますか?】
おおーッ、いけたぞ。どうやって判定してるのかは知らんが、最近のAI、すげー。
俺はAIの判定能力が気になって、思いつくセンテンスをかたっぱしから試してみた。過去のトレンディドラマで話題になった「僕は死にましぇん」から、万葉集の短歌まで、なけなしの知識を総動員した。いやー、短歌なんて、マジで中学校のときの百人一首大会以来だったぜ。
で、まあ、遊びまくったあげくに、最終的にはとあるワードにしたんだが……いや、だから、愛言葉なんだから、聞くなよ。俺のプライバシー、守れよ。
ちなみに、漱石先生の、
「月がきれいですね」
は、AIには通じなかったぜ。やっぱりそこはAIなんだな……ほっとしたよ。愛言葉の判定は、背後で人間が手動でやってるかもしれない、って疑ってたんだけど、これで俺の疑いもそこそこ晴れたようなもんだ。
10/26/2022, 1:46:16 PM