遠い日の記憶が蘇る。
弟と2人手を繋いで家に帰っていた時の記憶。その日もいつも通りの帰り道だと思ってた。弟とと一緒に近所の公園に行って俺の友達と弟の友達と皆でサッカーして雑談して5時のアナウンスが鳴ったから帰ろっかってなって...
弟と2人、帰り道に今日の夜ご飯何だろうねって話して、ハンバーグがいいとか唐揚げがいいとかキャッキャしながら帰っていた時。
目の前の交差点でおばあちゃんが横断歩道を渡ってる時、赤信号にも関わらずスピードを落とさずこちらに向かってくるトラックが見えた。ここからおばあちゃんの所までは30mはある。叫んでも多分聞こえない。かと言って走っても恐らく間に合わない。どうするべきか、そんな事をぐるぐる考えていると...弟が走り出していた。危ない...早く行かなきゃいけないのに、そう思う様に足が動かない。やっとの思いで走り出し、追いついた。そう思った時には遅かった。
俺が追いつくよりもトラックが弟達に到達する方が早かった。
弟はおばあちゃんを突き飛ばしてトラックに轢かれた。
目の前で血飛沫が舞った。
弟の四肢はあらぬ方向に曲がり、辺りは血の匂いで満ちている。胃液が込み上げて咄嗟に口を抑える。おばあちゃんは目立った傷は無いものの、恐らく打撲、酷くて骨が折れているだろう。
俺は震える手でスマホを取り出し、119番にかけた。身体が勝手に動いていた。頭は真っ白だった。理解が追いつかなかった。ハッと気がづくと目の前には救急隊員がいた。既に救急車は到着していて弟の身内かと聞かれた。俺は首を縦に振って救急車に乗り込んだ。
病院にて治療に当たった医者の帰りを待つ間に俺は両親に連絡した。弟が跳ねられた、と。両親は飛んで病院に来て俺を抱きしめた。どこも怪我してないか、って。怪我なんかしてないよ、だって俺...
そんな思考を掻き消すように医者の声が響いた。手は尽くしたがついさっき亡くなったそうだ。両親は崩れ落ちた。俺は静かに泣いていた。まだ頭が混乱していた。
俺があの時止めていれば、いやまずまず俺が先に走り出していれば弟は轢かれずに済んだ。なんであいつが死んで俺が生きてる?なんで?なんで?なんで!俺が......
今日はあいつの命日。俺はあいつの墓の前に立ち涼しい風に吹かれ、そんな事を思い出していた。遠い日の記憶。
7/18/2024, 2:46:36 AM