テーマ:目が覚めるまでに #263
あなたの声が聞こえる。
微かに。
私を呼ぶ声。
あぁ、愛おしいあなた。
私は重い瞼を開ける。
もう声を出せる力はない。
でも、最後まであなたを見続けるわ。
あなたの目には涙が溜まっていた。
全く泣き虫の子供みたい。
私は彼の頬に手を伸ばす。
いえ、正確には彼が私の手を握り、
その手を頬に持っていった。
ごめんね。
先に逝く私をあなたは許してくれないでしょう。
あなたは私を恨むでしょう。
彼の目から一筋の涙が伝う。
「君の目が覚めるまでに、僕がキミに捧げるこの作品を絶対にこの世に広めるから。僕は君を愛している。ずっと、ずっと……」
あぁ、あなたは……。
あなたという人は……。
私を恨んではくれないのね。
最後の最後まで私に優しい言葉をかけるだなんて、
どうかしている。
もうそこに迎えが来ているかのように、
私の体は言うことを聞かなくなっていた。
でもこれだけは……。
これだけは伝えなくちゃ。
君が目を閉じた後、
ピーと鳴る心電図モニター。
僕は最後に君が動かした口の動きを
頭の中で何度も再生した。
君が最後に残した言葉。
(あいしてる)
僕は君の手をゆっくりとおろした。
君のためにも、
この作品は完璧に仕上げなければいけない。
涙をぬぐった。
君の目が覚めるまでに、
僕は一つの光を灯す。
小説という一つの君と作った光を。
8/3/2023, 12:32:08 PM