『列車に乗って』
少し経って、気がついた。
あれ、この列車、どこ行き?
見慣れた窓からの景色、聞き慣れた車内アナウンス。変わり映えのしないはずのものに少しの違和感が混じってから、私は思い当たる。どうやら乗る列車を間違えたらしい。
慣れた空間が突然、知らないものへと変化する。見える景色は目新しく、隣に立つサラリーマンでさえどこか遠くからやってきた異邦人のように感じる。次に止まったら、降りなければならない。降りて、引き返して、それで……。
車内の人工的な明かりと窓から差し込む自然の光の狭間で考える。今すぐ戻らなければ、と焦る一方で、このまま行けるところまで行きたい、と好奇心が胸を叩く。
どうしようかな、どうしようかな。興奮が息を詰まらせる。
気づいている。この列車が減速し始めていることに。アナウンスが「次はー」から「まもなくー」へ変わっていることに。
決断がつかないまま、見える景色がどんどんスローモーションになっていく。鼓動が激しすぎて、自分が痙攣しているように錯覚する。
止まって欲しくない、と思った。
2/29/2024, 6:02:10 PM