狼星

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テーマ:快晴 #152

「君、浮かない顔してるね」
僕の家の裏には川が流れている。
僕は時々、その川のせせらぎを聞きに行く。
辛いことがあったとき、
うまく行かないことがあったとき、
なにもないときもまるで庭のように。

今日だって一人で、
新学期うまくいかないなぁ…と思って
川をぼーっと見ていると声をかけられた。
「大丈夫かい?」
その言葉が僕にかけられているものだとは
すぐには思わなかった。
「あ、僕?」
「なんか、消えそうな感じ」
白いワンピースを着たその人は僕の隣に座った。
同じくらいの女子にドギマギしていると
「川よく来ているよね。最近」
そう言われたものだからびっくりした。
「え? なんで…?」
知っているの? 僕は最後まで言えなかった。
「見ていたから…かな」
彼女は川を見つめていた。
僕の方を見なかった。
「大丈夫?」
彼女にそう聞かれて僕は抱えている膝を見た。
「わからない」
「大変なの?」
「うん」
「そっか…」
短い文でお互い返すため、なかなか会話が続かない。
「私には君の悩みはわからないけど、またいつでも来なよ。話なら聞いてあげられる」
僕が人と話すことが苦手なことを知っているようだった。
「ありがとう」
知らない女子と話すことは苦手なはずなのに、
なぜか彼女のことを知りたがっている僕がいた。
でもなんとなく言えなくなって黙ってしまった。
「じゃあ、私もう行くね」
そう言って彼女が立ち上がったのは数分後のことだった。黒い髪が風になびく。
「うん」
彼女は去った。
僕は川を見ていた。
赤くなっているだろう顔を
彼女に見られたくなかったからだ。
その視界の隅に白い何かが入ってくる。
それは白いハンカチだった。
僕はそれを持って立ち上がると、彼女をさがした。
でも彼女の姿はすでになかった。
「困ったなぁ…」
僕がそう呟くと視線をハンカチに戻す。
何故か見覚えのあるそのハンカチは、
彼女の着ていたワンピースのように白かった。
僕が上を見ると快晴の空が広がっていた。
そういえば数年前、
こんな感じのハンカチを落とした女の子と会ったなぁ。
そんなことを思い出した。
その子は落としたハンカチを探しているときも
ワンワン泣いていて。
そんなになんで泣いているの?
と聞いたら泣きながら
お母さんのだからって言っていたっけ?
彼女もワンワン泣くとは言わないが
このハンカチをなくしたことに悲しんでいたら、
可哀想だな。
そう思って近くの木にハンカチを結んだ。
彼女がもう一度ここに来たときわかるように。

4/13/2023, 12:55:23 PM