#大人しい2人がまったり恋してみる話 (BL)
Side:Reo Noto
「…おはようございます、深屋さん。野藤です」
「 …」
「…深屋さん?」
"今日もよ…しくおねかまいします"
何だか、今日の深屋さんはどこか上の空だ。
それに、筆談の誤字がいつもより多い気がする。体調が悪いのか?それとも…よく眠れていないのか?
深屋さんは俺に迷惑をかけてしまうと思っているからか、本当に不調な時ほどすぐにそれを隠そうとする。
…でもそれは、俺にとって迷惑なんかじゃない。むしろ俺が深屋さんの家で家政夫の仕事をするうえで、絶対に見逃したくないことのひとつだ。
「…深屋さん、もしかして体調が悪いんじゃないですか?」
"大丈夫てまふ"
「ほら…また誤字してます」
「…」
「…寝室に連行しますね、ちょっと失礼します」
「…っ!? …〜!!」
…俺が大量に作り置きしたおかずを難なく完食できるほどまで食欲が復活したはずなのに、深屋さんは相変わらず軽いな。
慌てふためく深屋さんを軽々とお姫様抱っこして、俺はそのまま寝室へ連れて行った。
額に手を当ててみると、熱があるのか少し顔も赤くなっているような気がする。
「…今日はガッツリとしたものはやめて、おかゆにしましょうか。少し熱があるみたいなので」
"すみまへん…"
「…深屋さん。さては…執筆活動に集中しすぎてあまり寝ていなかったのでは?」
「…」
「…なるほど。ゆっくり休んでいてください、いつも通りこっちは俺がやっておくので」
"ありかまとございます"
…筆談の誤字がひどい。おそらく、こんなになるまで深屋さんは我慢していたのかもしれない。
少し苦しそうな呼吸を繰り返している深屋さんの頭の下に氷枕を敷いて額に冷えピタを貼ってから、俺はいつも通り仕事に取りかかった。
それにしても、深屋さんがここまで体調を崩したのが俺がいない時じゃなくて本当に良かった…と、俺はこの時心底そう思った。
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病人を1人にさせておくのはさすがに危ないからと、この日結局俺は深屋さんの家に泊まらせてもらった。
深屋さんは依頼人で、俺は家政夫。この関係はあくまで仕事の域を超えないと分かってはいても、契約時間外でも深屋さんのそばにいられるのだと思うと少し…嬉しい。
「…可愛い寝顔だな」
時刻は午前5時。朝日が顔を出し始めて、深屋さんの眠るベッドをあたたかく照らしている。
数時間前まではあんなに苦しそうだった深屋さんは、朝日のぬくもりに包まれて今は穏やかな寝息を立てている。
…いっそこれが仕事上の関係でなくなってしまえばいいのに。
契約なんてなくともこのまま深屋さんと一緒にいられたらいいのに。
深屋さんの家政夫として働くようになって早4ヶ月。そんなことを思ってしまっている自分自身に対して内心動揺している。
「…ん…?」
「…!…深屋さん、おはようございます」
「…!」
ゆっくりと目を覚ました深屋さんに静かに挨拶をすると、昨夜に比べて顔色が良くなった深屋さんの顔がみるみる赤くなっていくのが分かった。
…この反応…。
「…天璃さん」
「っ!!?」
「あ…すみません。つい、名前のほうで呼んでしまいました」
"いえ、あの、大丈夫です。びっくりしただけです。えっと、じゃあ…玲於くん?"
「…!」
深屋さんを名前で呼んだら戸惑われるだけ…かと思いきや、予想外の反応が返ってきた。
9歳も年下の俺にも「家政夫さんだから」と常に敬語で話していた深屋さんが、まさか俺のことを名前で呼んでくれる日がくるなんて。
心做しか、深屋さんの部屋の大きな窓から差し込む朝日がいつもより暖かく感じる気がする。
こんなにも心地よく迎えられた朝は初めてだ。
…だから、せめて2人だけの時くらいは…。
「…それ、いいですね。俺のことはそう呼んでください、天璃さん」
「…!」
「俺は確かに家政夫ですが、もっとこう…気楽に話してもらって大丈夫なので」
"じゃあお言葉に甘えて、玲於くんって呼ばせてもらおうかな"
…敬語が外れた天璃さんもいいな。敬語だった時よりも俺に心を許してくれているようで。
この時ほんの少しだけ、天璃さんとの間の心の距離が近づいた気がした。
【お題:朝日のぬくもり】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・野藤 玲於 (のとう れお) 攻め 21歳 家政夫
・深屋 天璃 (ふかや てんり) 受け 30歳 恋愛小説家(PN:天宮シン)
6/9/2024, 12:26:24 PM