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『夢を見てたい』

眠れない。
野生動物のお母さんみたいだった産後の私は、うまく眠れなかった。
静かな真夜中の和室で、毎夜空回りしていた。
子が泣いていないのに泣いている気がするし、息をしているのか何度も確かめてしまう。
ピリピリと気が張りつめて、何もしていないのにどんどん疲れていき、眠りたいのに気持ちが散り散りでうまく眠れない。
すると、突然ぷつっと糸が切れたように記憶が途切れる。
眠るというより、もはや気絶に近い。

気絶したように眠ると、実にさまざまな夢をみる。
昔勤めていた職場でバリバリ働いている。
女友達とラウンジでお茶をしている。
気の向くままに街を歩いている。

当たり前のようにしていたけれど、今はできないことばかり夢に見た。
夢の中の私はまだ若く、自由で身軽で何でも出来た。
産後の夢は、ないものねだりの私の欲望を反映していた。

子の泣く声で目が覚める。
よしよし、お腹が空いたのかな。
慎重に抱き上げて、もそもそとパジャマをめくり授乳する。
授乳をしながら夢の続きを考えるけれど、静かでぼんやりとした寝起きの頭にはもう何も浮かんでこなかった。

家にこもって生まれたての子を生かすために必死だった私には、夢はちょっとしたエンターテイメントだった。
うまく眠れなかったけれど、夢をみるのを楽しみにしていた。

1/14/2023, 1:40:42 AM