月園キサ

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#澄浪さんの好きなひと (BL)

Side:Ichiru Suminami



友人の恭士の紹介で最近知り合った外園さんは、俺の想像していた以上に大きな秘密を抱えている人だった。

ただ…その秘密を知ってしまったあの夜から、外園さんは突然姿を見せなくなってしまった。


「…CHiMAさんのSNSの更新も、ピアノの演奏動画の投稿も先月から全部止まってる…。外園さん…どうしてるんだろう」

「外園君、ああいう失敗めちゃくちゃ引きずりそうだもんねぇ…。僕も最近全然顔見てないなぁ」

「えっ…。外園さん、あれから1回もここに来てないの?俺がたまたま見ていないわけじゃなくて?」

「そうそう。さっき伊智瑠が来る前にも僕ら3人して今日は来るかな〜とか話してたとこ」

「オレ、外園さんがここにいないと何か寂しい!4人もいいけどやっぱ5人がいい!」

「僕も同感。また来てほしいのになぁ…」


外園さんを入れて5人でイツメンだったのに、またもとの4人に戻ってしまった。

俺達の間だけで共有していることとはいえ誰にも言えない秘密を知られてしまったのだから、外園さんの精神的ショックはきっと俺が想像している以上のものだろう。

…もし、外園さんとこれっきり会えなくなったら…?


「…嫌だ、想像したくない…!」

「うおぉっ!急にどうしたんだよ兄貴!?」

「あ…ごめん、声に出てた?」

「…もしかして外園さんのこと、考えてたんですか」

「あはは…うん、実はね」

「僕ら以外の人に滅多に心を開かない伊智瑠が、外園君のことはそんなに気に入ってるなんてねぇ。それは推しだから?」

「確かにCHiMAさんは俺の人生史上最高で最強の推しだけど…でも…」

「うん?」

「外園さんがCHiMAさんだから好意的になってるんだとか、CHiMAさんのほうにしか興味がないんだなとか思われてないかなって、時々怖くなるんだ」


…そう。あれからずっと、怖かった。
こちら側が外園さんをCHiMAさんと知ったうえで接することで、外園さんがまた心に距離を置いてしまうことが。

もしかしたらそれが今、現実となってしまったのかもしれない。

…それでも、会いたい…。


「…あの…こ、こんばんは…」

「ほ、外園さん!?どうしたんすかそんなくたびれた顔して!」

「噂をすれば何とやら…!久しぶりだね、外園君!」

「…外園さん、どうも」

「…!」


待って…待って、一旦待ってほしい。

今、この1ヶ月間ずっとずっと聞きたかった穏やかな声が聞こえた気がする。

おそるおそる振り返ると、間違いなくそこには外園さんがいた。俺の聞き間違いではなかった…!


「…外園さん…!」

「み、皆さんお久しぶり…です。あの…その…」

「もおおおお外園さん!連絡ないから心配してたんすよぉ!!?」

「おっと、篤月に先に全部言われてしまいました…お久しぶりです」

「さぁさぁそこに立ってないで、久しぶりに5人全員揃ったことだし一緒に飲もう!」

「…は、はい…ありがとう、ございます」


外園さんが遠慮がちにカウンター席に近づいた時、彼と俺の視線が一瞬重なった。

外園さんは最後に見た時よりもさらに疲れきった顔をしていて、この1ヶ月の間に彼に何があったのかと俺は不安になった。


「外園さん…もし良ければ、この1ヶ月の間に何があったのか教えていただけませんか?」

「…え…?で、でも…そんな、大したことはない…ですよ?」

「…そんな顔をして、何もなかったというほうがおかしいですよ。絶対に何かありましたよね」

「せ、世古くんまで…」

「外園さぁ〜ん…なぁんで教えてくれないんすかぁ〜…」

「…篤月、酔うの早すぎ」

「酔ってなぁ〜い!!」


それから数分後、外園さんは恥ずかしそうに俯いて沈黙を破った。


「…実は…その、き…曲が書けない…って、もがいてただけなんです…。仕事から帰ったら疲れて寝るの繰り返しで、書く時間もあまりとれなくて…」

「…え…っ?」

「だ、だからっ…決して皆さんを避けてたとかじゃ、ないんです…。それは絶対、ないので…!」

「外園さぁああん!もう二度と会えないかと思ったっすうううううう!」

「わわっ…!あ、篤月くん…!?苦し…」

「…コラ、篤月。外園さんに抱きつかない。伊智瑠さんが妬く」

「世古くん…さすがに弟に妬きはしないよ」


正直、誰にでも素直に絡みに行ける篤月がこの時は少し羨ましいと思った。
でも…そんなこと言えない。

何故なら、俺にとっての外園さんが俺の心を生まれ変わらせてくれた推しでも、外園さんにとっての俺はまだ知り合って間もないただの飲み友達でしかないからだ。


誰にも言えない秘密…というよりかは、もう既に外園さん以外のイツメンにはバレバレになってしまっているけど、こちらがどんなに想っていても相手が同じように想ってくれるとは限らない。

だからこの息苦しくなるほどに溢れ出して止まらない感情は…まだ外園さんには隠しておこうと思う。




【お題:誰にも言えない秘密】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・外園 摩智 (ほかぞの まち)/CHiMA (ちま) 攻め 25歳 リーマン ノンケで童貞

・ミナミ/澄浪 伊智瑠 (すみなみ いちる) 受け 31歳 ショーバーのパフォーマー ゲイのネコ


・澄浪 篤月 (すみなみ あつき) 21歳 伊智瑠の弟 恭士の経営しているバーのウェイター バイのタチ

・名渚 恭士 (ななぎ きょうじ) 31歳 伊智瑠の友人 バー "Another Garden" のオーナー バイのバリタチ

・世古 諒 (せこ りょう) 21歳 篤月の彼氏 大学生 元ノンケ

6/5/2024, 1:26:44 PM