ぽつぽつと始め、そのうちに今までにないほどすらすらと彼女は長く話し出した。今日は珍しく、俺が黙って聞いているからかもしれない。
「だから、君がいなくなると思ったら、」
そこまで話したとき、いきなりヒュッと息が止まったかと思えば、突然その瞳がゆら、と輪郭がぼやけて、ひとつの水になって、ボロりと頬を伝わずに膝に重く落ちた。
一瞬もしないうちに変わった空気に戸惑ってしまう。さっきまで憑き物が落ちたように穏やかに、でもいつもと同じ調子でこっちを仕方ない奴だと見るようにすらすら話していたじゃないか。こうやって泣くときってだんだん声が絞られたり、涙ぐんできたりするもんじゃないのか。目薬使ったってもっとそれらしくなるだろ。
そこから糸が切れたようにただ、泣いている。泣き出して言葉のかわりにひたすら、息苦しそうに、不安定なリズムで、しゃっくりのような呼吸と、鼻をすする音がしている。怒っても泣いても意味が無いだろう、面倒なやつ、話を聞く気も失せると思われるだけだと、どんなときもその対して変わらない表情で、理性的な言葉を、誰が聞いたって言い返せないくらい、その通りですと言うしかない言葉を紡いできた口からは、うう、と意味の無い鳴き声が吐き出されている。
彼女はなんで、俺みたいに鈍くて、単純な奴と組んでくれたのだろうと聞かれてしまうと、未だに少し疑問だ。
俺だって最初、なんで? って感じはあったけど、噂より怖くないし、真面目で。出来ない人を馬鹿にもしないが、能天気にできなくてもいいじゃん、とも言わない。聞かれたらただわかりやすく答えて、わからなければ、わかるようにその人に合わせて例え話をする。特別明るくもないし、現実を突きつけるツッコミもしてくるけど、いいやつだと思う。
正直、彼女はなんで泣いているんだろうと今思っている。俺が居なくても対策してたはずだし、心配してくれたのだろうか。少し違う気がする。不安になったのか、なぜなのか、今本人も気づいてない気持ちを、言葉より先にその涙が押し出している。
【涙の理由】
10/10/2024, 11:52:18 AM