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好きじゃないのに、好きになれないのに、何度も目で追ってしまう。好きじゃないからこそ、気になって仕方がない。つい、視界に映ると、気になってしまう。嫌いな訳では無い。かと言って好きな訳でもない。どちらかと言うと、苦手なだけだ。
クラスの中心に立つ明るい彼。いつも誰とでも話していて気さくな人物。太陽と月で例えると、彼は太陽側の人間であることは依然としてわかるだろう。
「また、彼のこと目で追ってるの?」
教室の中が、ざわざわと騒いでいる休憩時間中。前の席の、気軽に話せる間柄の友人にそんなことを言われた。また、だなんて心外だ。私は自然と彼に目がいくだけで、好きで追っているわけではない。
「そんなに目で追っているように見える?」
私が友人に聞くと、友人は頷いた。それも、質問をしてすぐに。つまり、即答であった。
「そんなに気になるんなら、話しかけてみればいいのに。」
友人は呆れた顔で呟く。それだとまるで、私が彼のことを気にしてる様ではないか。
「…私、彼のこと気になってないんだけど。」
「気付いてないだけだよ。自覚無しは怖いね。」
生温い視線が私に刺さる。自覚無しだなんて。気にしてすらいないのに、それを何度も言っているのに。
「好きでしょう。彼のこと。」
友人はニヤつきながら此方へ言葉を投げる。そんなことは無い。彼の顔は私の好みでは無いし、近くの席になったこともない。出席番号だって離れていて、話したこともないのに。
「どうして私が彼を好きだだなんて、そんなことが言えるのよ。」
友人は私がどんな男性が好みかを知っているはずだ。話す内に、そういったことも話すようになったのだから。
「…だって、好きでもない人にあんな熱烈な視線を寄越したり、普通はしないわよ。」
熱烈な、視線なんて。そんなわけ、ない。
「貴方、彼を見ている時、恋してる可愛らしい女の子みたいな顔をするんだもの。」
写真だってある、そう言って友人はスマホを出す。そんなわけない、反論してやる。そう思って私は友人の液晶画面を覗いた。
頬が赤く染まり、目を輝かせる1人の少女。
それはまさに恋をしている乙女の姿で。
「…好きなんかじゃ、ないのに…。」
私は顔を咄嗟に隠した。


それは、4月の青空と白と桃に色付いた桜が私たちを歓迎し、祝う日であった。
大きな桜の木の下に、たった一人でいた彼。気を撫でて、優しく笑う彼に心を奪われた。いつものみんなと話す時の豪快な笑みではなく、寂しそうな、何かを見送るような表情。あれが、いつまで経っても脳裏から離れない。私は、動けずにいた。いつの間にか彼は、そこから居なくなっていた。

好きじゃないのに。

3/25/2024, 11:16:52 AM