MISOYAkI

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『もしもタイムマシンがあったなら』

「え?」
女は手に持ったマクドのジュースを顔の前で傾ける動作を止めた。
「タイムマシン?」
唐突に投げかけられた質問に、いや、想定外の質問に戸惑いを隠せないようだ。
「そんなものより、もしもボックスをよこせって思うね。あれマジやばくない?可能性無限じゃね?」
この人はいつもそうだ。こちらの質問には答えないし、期待にはバチバチに応える。
「もしもボックス入ってさ、“もしもって概念が、もしもなかったら〜!”とかって言ったらどうなると思う?」
そんなの知らないよ、とポテトをつまむと、その手を強くはたかれた。
「知らないよじゃねぇよ!真剣に考えてみろ!」
何がこの人の逆鱗に触れたのかはわからない。わからないが、とりあえず謝って、“真剣に”考えてみる。
もしもという概念がなかったら?…仮定のない世界となると、予想もないわけなので、人間は見通しを持った行動ができなくなる。つまり、大混乱だ?
「なんで語尾に?がついてるんだよ、お前の考えだろ?」
また叱られた。
「そもそもさ、難しく考えすぎなんだよ。マジ何言ってるのかさっぱりわかんなかった。全部忘れろ」
ひどい。
「んで想像しろ。今お前はもしもボックスの中で、“もしもって概念が、もしもなかったら〜!”って言ってるんだよ?じゃあそのお前が入ってるもしもボックスはその瞬間どうなるんだよ」
………あぁ、確かに。
そこでようやっと、女はジュースを傾けてクーの白ブドウを喉を鳴らしながら飲んだ。
「てかさ、なんでこんな話してるわけ?……そうだお前がタイムマシンがうんたら言うからだ。あたし、過去振り返るの嫌いだよ。未来は行かなくたっていつか来るしいらなくね?」
そこまで根本的に否定されると何も言えなくなってしまう。もじもじしながら、またポテトをつまんだ。今度ははたかれなかった。
「あぁ、でもそれこそさ、もしもボックスで言えばいいんだよ、“もしもタイムマシンがあったなら”って。ね?ほら、ね?」
自慢げに鼻息を鳴らすが、もはや僕は自分がどこにいるのかもよくわかっていない。
話を切り出したのは僕のはずなのに、コントロール不可能で進むことも退くこともできないし、なのに中途半端に話は続くし、目前にまだ大量に残っているポテトは冷めきってしまった。
僕は今切実にタイムマシンで過去に遡りたいよ。そしたら決してこんな馬鹿な質問はしない。

7/22/2023, 4:40:02 PM