風の匂いの思い出

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ー君はさ、どの季節が1番好き?

急に突拍子もなく聞いてくる彼女に僕は、
特にないかな、なんて答えしかできなくて

「言うと思った」って君は太陽みたいな笑顔を僕に向けるんだ。


ー私はね、夏が1番好きー


夏なんてただ暑いだけじゃない?


ーそうかも、でも青空に白い雲が高く登ってるのをただ      眺めるのが、好きなんだよねー

ー夏は他の季節に比べて雨が沢山降るでしょ?
だから好きー


そう答える彼女は、少し影を帯びているようだった

いつも太陽みたいな彼女は、時々こうして影を見せる。
雨か…雨が好き…
雨が好きなんて、やっぱり彼女は変わっていると僕は思った。

夕方は雨が降るって、と彼女に伝えるとただ彼女はにこりと笑うだけだった。



夕方、雨の中傘も刺さず空を見上げている彼女を見た。
僕は駆け寄り、傘の中に彼女を入れた。

風邪引くよ、そう声をかけ彼女の顔を見つめると
彼女は、静かに涙を流していた。


ああ、君は、雨に隠れてただ静かに涙を流す子なんだね


    

    彼女の頬を伝う雫が、ただ美しかった



4/21/2024, 8:26:21 PM