夏野

Open App

別れ際に


何か言わないと。
そう思ったのに、何と言えばいいのか分からなくて俯いた。
もうすぐ分かれ道だというのに、二人分の足を眺めて無言で歩き続ける。
気の利いた一言くらい、言いたい。

でも言えないから。

「またね」
「……また明日」

定型文のような言葉を交わしあって、右に曲がった彼女を横目に、真っ直ぐに進む。
明日の別れ際を想像しながら、明日こそは違うことを言おう。
昨日も同じことを考えて何も進展しなかったから、明日こそは、とそう思うんだ。

9/28/2024, 2:20:44 PM