魔王にさらわれた伯爵家の姫であり俺の許嫁を救うべく、国王陛下にお許しをいただき兵を訓練し討伐隊を編成し率いてやっと魔王の城までたどり着いた。強大な魔力の魔王を倒すために1年の月日が必要だった。
あの人形め、まんまとさらわれおって。
俺の出世はどうなる。あの女の家柄名誉財産を手に入れて出世する俺の計画が台無しだ。おとなしく俺の鳥かごの中で生きていればいいものを。とっとと姫を連れ帰り婚姻だ。
姫のいる、塔の最上階に俺と2人の兵しかたどり着けなかったが、まぁいい。
魔王はまだ戻ってこないようだ。
「姫、ご無事でしたか。お助けに参りました。さぁ、行きましょう。」俺が言うと、姫は「いいえ。」と答えた。
よく見れば幼子を胸に抱いている。
「そ、その子は?」俺が狼狽えて問うと、姫は答えた。「あの方と私の大切な御子です。私はさらわれたのではなく、身ごもった私をあの方が連れ出してくださったのです。私は望んであの方と結ばれたのです。ですからもうこれ以上、私たちの幸せを脅かさないでくださいまし。」
なんということだ。そんなに前からこの女は俺を裏切り魔王と通じていたのか。
「裏切りもの!子供もろとも殺してやる!」俺が叫ぶと女は「裏切り?許嫁とは名ばかりで私の家や財産ばかりみていた方に、裏切り者とは言われたくありません。ですが、私を殺して気がすむのでしたら、この命差し出しましょう。でもこの子の命だけはお助けください。この子に罪はありません。」
「うるさい!黙れ!魔王の子など!」
俺の剣が二人に突き刺さろうとした刹那、まばゆい光が子供を包みどこかへ消え去った。
俺の剣は女の胸だけをつらぬいた。
「間に合わなかったか!」
魔王は2人の兵士に当て身をすると女の元に向かいその胸にかき抱いた。
「ローズ、すまない、お前を守れず。」
「いいえ、あなたはあの子を守ってくださった。あの子は私の命。ありがとうございます。」
魔王は怒りに震えていた。
「おのれ!」
魔王の雷が俺をつらぬいた。
「あなた、最後の魔力を…。」
「良いのだ。お前のいない世界に用はない。あの子は私たちの子だ。1人でも強く生きるだろう。」
俺は薄れゆく意識の中で、2人が幸せそうな笑みを浮かべ、光の中に消えていくのを見ていた。
お題「鳥かご」
7/26/2024, 4:05:39 AM