過去に一度、真っ暗な闇の中にたった一人閉じ込められたことがある。
暗がりの中で、手を伸ばした。
必死に縋ろうとするけれど、何度試しても手のひらは虚空を掴むだけ。
怖い、怖い、怖い……
闇の中、どちらに進めば前なのかも分からなかった。
周りに、誰か居るのかも分からなかった。
この暗闇が、何処まで続いているのかも分からなかった。
入口も出口も分からずに、ただ闇の中を孤独に彷徨う。
毎日毎日、歩いて、彷徨って、藻掻いて
とうとう疲れ果て、何もかも諦めかけた時。
小さな、小さな明かりを見た。僅かな光だった。
けれど、闇の中で何度も流した涙より、温かかった。
暗黒の世界に閉じ込められた私を出口へと導いてくれた唯一の道標。
それは多分、不器用な貴方の温もりだったように思う。
「暗がりの中で」
10/28/2021, 12:36:40 PM