みこと

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数学が大好き。だけど、それ以外なにも興味が持てない、それが私。恋愛にも興味なんてない。それでいい。それが私だから。両親を失って、兄と二人になって、出会った数学。私はそれだけあればいい。数学をもっと知りたい。

放課後、図書室で一人で勉強。
「まーたネクラが勉強してるよーww」
「楽しいですかー?」
からかう声とか、自分に直接害があることはないし、ほんとにどうでもいい。
「まーた無視だよ。」
「きもすぎる」
そういう声ももう慣れたから。気にしないし、平気。だけど、時々思う。私は数学に出会わなかったらどうなってたんだろうって。数学みたいにもっと知りたいってなるもの、あったのかななんて。
少しして、静かに向かい側に誰かが座る。
「ヨネクラさん。数学中?」
座ってきたのは彼、図書委員の、えっと…
「あ、えっと、アサヒくん?うん。」
「そっか、頭いいね。」
「そんなことは、ないよ。」
「そっか。今度僕にも教えてよ。」
「いいよ」
「ありがと」
コミュニケーションを取るのが苦手な人同士だと、会話が続かない。ちらりと盗み見る彼は、長い前髪に隠れた目は、きっと本の文字を追っている。
「ヨネクラさん?どうしたの、こっち見て」
バレていたようで、少し狼狽える。
「な、なんでもないよ」
顔が赤くなるのが分かる。下を向いてもごもごしていると、少し彼が笑う。そして、私に静かに手を伸ばした。
「ヨネクラさん、こっち見てよ。」
長い前髪の下に隠れて、どんな目をしているか分からない。私の髪を少し持ち上げて、口元が微笑む。
「なんて、じょうだ…あ」
「ご、ごめん…っちょっと」
「ヨネクラさん!」
彼の手を振り払って走る。動悸がすごくて、顔が熱くて、初めての熱さでおかしくなりそうだった。

「ヨネクラさん、昨日はごめん」
朝一番、彼が謝りにくる。彼を見るだけで、昨日のことを思い出して爆発しそうになり、無視して走る。彼の表情なんて気にする暇もなかった。
勉強にも集中できないほど、私はおかしくなってしまった。
「どうした?点数下がってんな」
普通に兄にも先生にも心配されるくらい点数も下がっている。
「分かんないの、だけど、ぐるぐるして…」
すると兄は驚いた顔をして、その後嬉しそうな顔になる。
「お前、それ、恋だろ」
「そ、そんなのと…」
「顔赤けぇじゃん、分かりやすっ」
「いや、ちょ…」
「後悔、しねぇようにしろよ」
兄に頭をぽんっとされる。よく分からない感情に振り回されているなら、決着を着けたい、と思った。
「お兄ちゃん、お願いなんだけど…」
「いいよ、なんでも言ってみろ」
兄は私が来ることを察していたのか、色々用意がされていた。促され、椅子に座る。今まで邪魔にならなければそれでいいと思っていた髪を整えてもらう。どきどきが高まる。私が変わっていく。

朝になって鏡で自分を見て、またさらに心が跳ねる。だけど、今日は…
やけに騒がしい教室も、視線も全部、気にしたらいけない。ただ彼の元へ。早く。
「アサヒくん!!」
「えっ?と、その声はヨネクラさん?」
その問いに返事もしないまま、叫ぶように言う。
「アサヒくん、私はっ、今、恋してるかも、しれませんっ!!」
驚いた顔を私に向け、寂しげな笑顔のアサヒくんと目が合う。
「おめでとう。」
それだけ言うと、背を向けようとする彼の肩を掴む。
「アサヒくんに!恋してますっ」
驚いた顔にまくしたてるように言う。
「アサヒくんをもっと、知りたいですっ」
彼は優しい微笑みを浮かべた。
「僕も、ヨネクラさんに恋してます。」
驚いて彼の顔を見ると、目が合う。そう、目が合う。
「アサヒくん、髪…」
「切ってみた。ヨネクラさんと目を合わせたかったから。」
美しくて、儚い彼の瞳。なにを考えているか分からないほど、深い色。彼を、私はもっと、知りたいと思った。
「ヨネクラさん、勉強教えてくれる約束だったよね」
彼の揺れる髪と、瞳が私を捉える。
彼は、ズルい。もうこれは、好きになるしかない。
「アサヒくんのこと、もっと教えてもらっていいですか?」
もちろん、と彼の優しい声が響いた。

3/12/2024, 11:08:31 AM