明良

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祖母がくれた麦わら帽子をみて、さてこれをどうしようかと、少し困って考えにふける。

祖母の家に毎年の夏休みに帰省する度に、彼女は若いときに使っていたというアクセサリーなどをくれる。物持ちが良い祖母の物はどれも綺麗で大切にされていたことがみてとれる。

というわけで、この暑いのに帽子も日傘もなしで、これ被って帰んなさい。と頂いた今年のお土産がこの麦わら帽子である。
頭がちくちくしそうだとか、最近の同年代の子たちはキャップやバケットハットを被っていることが多いとか、鞄に潰していれるわけにもいかないから荷物になりそうだとか、少し遠慮したい気持ちを巡らせつつも、祖母の気持ちを無下にもできず、つばの広いそれを深く被って駅に向かった。

少し前に流行ったカンカン帽のような可愛さはないが、昔ながらの広いつばの麦わら帽子は、顔に影を落として、意外と快適ではあった。

駅のホームにくれば、風が吹き抜けて火照った身体を少し冷ました。線路に落とさないように頭の後ろを手でおさえる。
ざらりとした手触りにあれ、と頭を撫で回す。このあたりには祖母が自分で巻きつけたであろう、つるりとした白いリボンがあったはずだ。

「あのぅ、もしかしてこれ落としましたか」
振り向くと、白いリボンをもつ彼はいきなり気が抜けたように「ええ?! なんだお前か」と笑顔になる。
偶然にもこんな場所で会えたことにまごついて、「うん」としか返せない。
「リボンとれたの後ろから見えてさー」と手を差し出す彼に言いそびれたお礼を言ってリボンを受け取り、畳んでカバンのポッケにしまう。
「つけねえの」
「またとれたら困るから」

ほーん、と彼が返してきたとき、プルルル、と電車がくる合図が鳴る。乗るときは外そうと帽子を脱ぐと「お、」と言い出した彼は「さっき顔見えなくてちょっと緊張した」と続ける。
「やっぱ顔見えたほうがいいなって思ったけど、うん、こっち向いたときにしか見えないってのもいいな!」
頭も守れるし! と謎の褒め言葉も付け足したあと、目の前の電車に気づいた彼がこれ? と指したのに頷く。
じゃあまた9月な、と別れる前にもう一度、リボン、ありがとうとお礼を言って電車に飛び乗る。

ボックス席の隅に座って、外よりいくらか涼しい車内で私は両手でつばを引っ張るように、また麦わら帽子を深々と被り直した。

【麦わら帽子】

8/11/2024, 4:12:27 PM