星が溢れる
『もう少し手を伸ばせばあの星に手が届きそうな気がする…』
少女はできる限り背伸びして夜空に一段と輝く星に手を伸ばした
私は勉強も運動も苦手だ。クラスにはとても可愛くて男子にモテる子がいる。他にも自分の夢を持って毎日頑張っている子を見ていると特に特技や趣味を持たない自分が惨めに思えてきた。そして胸に言葉では表せない悲しみが波となって押し寄せ、瞳からは涙が溢れた。この気持ちとどう向き合えばいいか分からなくなった私は衝動的に家を飛び出した。
気づけば星がよく見える丘に立っていた。幼い頃に亡くなった母がよく星を見に連れてきてくれた数少ない思い出の場所だ。
夜空を見上げると満天の星々が煌めいている。
『輝きを持っていない自分とは大違いだ…』
より一層気分が沈んだ気がして、星と比べてしまうマイナス思考の自分に自己嫌悪した。
だが、ふと遠く小さいけれどキラリと一段と輝きを放つ星を見つけた。昔母と見つけた星に似ている気がする。すると母との或る夜の記憶を思い出した。
「人はそれぞれ自分にしかない輝きを持っているの。そしてその輝きを磨くため頑張って生きている。人の一生は短いもの。寿命が尽きれば人の魂は星となって天(空)へ還る。でもそれが終わりじゃない。星となって今生きている人を優しく見守ってくれているのよ」
『なぜ今思い出したんだろう…』
幼かった自分には難しかったけれど、母の言葉が今の自分の胸にはじわりと響いた。先ほどまで胸に蓋をしていた悲しみの塊が少し溶けて消えた気がした。
もう一度空を見上げる。星たちは変わらない輝きを放っている。このまま悲しんでいたら今にも星が空から溢れ出して降ってきそうだなとあり得ないことを想像してクスリと笑った。この星たちは昔も今も変わらず、私たちを見守ってくれているのだと胸が軽くなった。あの星空の中には母もいるだろうか…
『そうだ、遅くなってはいけない。家に帰ろう…
明日からも頑張ってみよう』
ちっぽけな自分の挑戦が上手くいくようにと星に願って、誓った。そして家に向かって帰るために走り出した…
3/15/2024, 11:53:35 AM