おつきさまが 輝く水辺を
おばあちゃんとわたしは歩いていきました。
おばあちゃんが立ち止まり 空を見上げて言いました。
「おつきさまが寂しそうだねぇ」
そう。おつきさまは本当に寂しそうだったの。
わたしは指先を唇につけて 空に向かって そおっと
キスをなげました。
キスは冷たい夜のなかへ 登っていったの。
くるくる くるくる 回るキス
かるい かるい やわらかいキス
「おつきさまも キスしてくれるかなぁ」
わたしは おばあちゃんに 聞きました。
「きっと してくれるよ。 きっとね」
おばあちゃんは 言いました。
深い森をぬけて おばあちゃんとわたしは
凍る 水辺へ 歩いていきました。
広がった夜の空には 雪が
ふるふる ふるふる おどっていました。
さいしょの雪の ひとひらが わたしの頬に おりてきたの。
ふんわりとした つめたいキスが 頬の上で 溶けていきます。
くるくる くるくる 回るキス
かるい かるい やわらかいキス
おつきさまが 輝く水辺を
おばあちゃんと わたしは 歩いていきました。
おつきさまが キスをふらせる 夜のなかを。
#Kiss
2/4/2024, 12:01:36 PM