お題
『日常』
私の日常は誰にも勝てないくらいつまんない。
人との関わりはもちろん、私が言葉を発することなんてほぼない。
話す人なんかいないし、話したとしても全て独り言。
一応、家族構成は父、母、兄、弟の5人家族。
兄は上京しているため家にはもう何年もいない。
弟は私と違ってクラスの中でも陽キャ。家でも私には話しかけてこない。
親も、最初の方は『大丈夫?』とか『調子はどう?』とか言って尋ねてきてたけどもう、存在すらないようにまるで私は空気だ。
いや、人々を生きさせる酸素でも無いかもしれない。
そんなある日…
コンコンッ
いつもは静かな私の部屋のドアが鳴る。
『……姉ちゃん。』
弟の声だった。いつもリビングや、弟の自室で聞くぎゃーぎゃーした声とは違う、怯えている、?ような小さな声
無視しようかと迷ったが興味本位で扉を開けてみることにした。
ガチャ……
『あ、姉ちゃん……っ』
扉の向こうには弟がうずくまり座っていた。
弟は少し驚いていた。まぁ、そっかと思う。
いつもならドアをたたかれても、反応はなし。
家でもろくに話さない姉が突然部屋から出てきたのだから。
「何?どうしたの。悟(さとる)…」
いつぶりだろう。弟の名前を呼んだのも、声を発したのも、誰かに話しかけるのも
『あのね、姉ちゃん。俺…』
「……?」
『クラスで虐められてるんだ…』
私の中で時間が止まる。まさか悟が…?
そんなわけ…wだって悟だよ?私とは性格も何もかも違う悟が…。いじめられてる?
「え…何言ってんの。悟」
『信じてくれないよね。俺の性格柄』
図星をつかれて私は黙ってしまう。
゛信じられないよね゛その言葉は私の心にグサっとささる。
『ごめん。部屋戻るわ』
「あ、悟っ……」
呼び止めて何を悟に言えばいいのか。こんな能無しの人間が誰にアドバイスなんてできる、?
『何?』
悟の目は死んでいた。何もかも諦めた顔。
「なんでもな……」
『あそ、じゃ』
さっきとは気配も何もかもが違っていた。私にはもう何も求めていない。こいつは役に立たないからとはやく離れたい、そんな表情。
次の日悟は昨日と変わって元気に登校して行った。
両親には話してないらしい…。そんな中私に相談してくれたのに…。私は胸の奥がぎゅっとなったのを感じた。
今日もいつも通りだった。誰にも話しかけられず、穏やかに…?
あれ、悟は?今、どうしてる?
”クラスで虐められてるんだ”
私は、話しかけられないだけで危害なんて加えられてない。いつもそんな自分を可哀想、みんなはずるい。話せる人がいて。それってただの自分が好きな人じゃん…?
悟…っ
その日兄が久しぶりに家に帰ってきた。
「真紀(まき)、悟久しぶり」
兄だから、と言って私は口を開けない。弟と話したのは自然と何故か口が開いたから
「真紀、悟、何かあったの?」
兄は相変わらず察しが早い。私が話せなくなっていることも、悟の悩みも全部当ててしまう。
『なんもねぇよ?なんだよ辛気臭せぇ、』
「なんもないならいいけど、なんかあったら相談しろよ?」
『へいへーい』
なんで悟はそんなに平気なの?いじめられてるんでしょ?私なら全然平気になれないよ…っ
気づけば私は頬に涙を零していた。
兄と弟は私を慰めた。
久しぶりに人の温もりと兄弟との触れ合いで安心したのかいつの間にか私は寝ていた。
「ん…?」
「起きた?」
「お兄ちゃん…」
「あ、お兄ちゃんって呼んでくれた(笑)」
あ、でも別に故意をもって呼ばなかった訳じゃないし…
「悟に全部聞いたよ。」
「悟ねいじめられてないって」
え?何嘘ってこと?嘘と知り、心配した私が馬鹿だった、そう思ったのと同時に安心した。
ガチャ…
『姉ちゃん、ごめん。でもッ俺』
『姉ちゃんとまた仲良くしたくて…卑怯なやり方でごめん』
「ほら、仲直りな」
いつからだろう。私が自分以外の人を視界から外に出させたのは、理由は?
悟が差し出した手のひらに自分の手を重ねる。
あぁ、思い出した。これが私の日常だ。
6/22/2023, 12:05:17 PM