#大人しい2人がまったり恋してみる話 (BL)
Side:Reo Noto
家事代行サービス事業の事務所の社長をしている母のもとで家事を教わりながら育った俺は、高校卒業後すぐに家政夫の仕事を始めた。
だがそれは特にやりたいことも明確な人生の目標もなく、ただ家事が得意だからやってみることにしたというだけで、家政夫の仕事は別に自分の天職だとは思っていなかった。
…ちょっと風変わりな売れっ子恋愛小説家の、深屋天璃さんに出会うまでは。
"契約の延長もしくは、再契約は可能ですか"
家政夫として働き始めてから約3年ほど経つが、俺の見た目と性格のせいで初回のトライアル段階で訪問したきりそこから依頼が途切れるパターンがほとんどだ。
だから深屋さんからの提案を聞いた時、一瞬言葉が出なくなった。
「…?」
「…あ、すみません。契約の延長を依頼人さんの方から提案されたのって初めてなので、ちょっと驚いてしまって」
"そうなんですか?すごく手際がいいから、リピーターさんがたくさんいるようなタイプに見えました"
「…はい、実はそうなんです。俺…会話苦手だし、それにこの見た目だから怖がられがちで」
「…」
…マズい。俺としたことが、依頼人さん相手に愚痴ってしまうなんて。
急にこんな話されても、反応に困るだけだよな…。
"確かに最初はちょっと怖そうだなって感じはしましたけど、無理やり会話し続けようと話題を振られるより居心地が良かったですよ"
「…えっ?」
"だから…野藤さんさえ良ければ、これからも家事代行をお願いしたいです"
どうやら今回の依頼人さんの性格は、俺の性格ととても相性がいいようだ。
深屋さんのように俺の見た目と性格ではなく家事能力を純粋に見てくれる依頼人さんは、この仕事をするうえでとても貴重な存在だ。
…ああ、家政夫やっててよかったって今初めて思ったかもしれない…。
もちろん俺は深屋さんからの提案を二つ返事で受け入れ、正式な契約を結んだ。
初回トライアルサービスでの契約時間は3時間だったけど、これからは月水金の週3日。
寝食を忘れて創作活動に熱中しがちな深屋さんのためにたくさん作り置きを作って、部屋と服を綺麗に保って…。
少し忙しくはなるけど、距離感と会話のペースが合う深屋さんからの依頼だから楽しくなることは間違いない。
「…ありがとうございます。たくさんいる家政婦さんの中から俺を選んでいただけて嬉しいです」
"いえいえ…家事同行サービスなんて初めて利用したから緊張しましたけどんぶり"
あ。深屋さん、最後誤字ってる。もしかして丼物好きなのかな?可愛いな…。
…ん?可愛い…?
今まで依頼人さんに対して仕事以外の感情を抱いたことはなかったのに、どうしてだろう。
可愛い誤字を見てしまったら、深屋さんがさらに可愛いく思えてきた。
"あ…ごめんなさい、誤字しちゃいました"
「大丈夫ですよ。可愛い…いえ、誤字ることは誰にでもありますから。焦らずゆっくり話してくれていいですよ」
"ありがとうございます…"
俺よりも20センチくらい身長が低くて、9歳年上で、俺と同じ大人しい性格の新しい依頼人さんをこんなに可愛いと思ってしまうなんて。
次回の夕食は親子丼でも作ってみようか。
仕事中の癒しになるように、部屋にいくつか花を飾ってみようか。
深屋さんのために仕事をする時間の全てが、きっとこれからいつまでも忘れられないものになるだろう。
【お題:忘れられない、いつまでも。】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・野藤 玲於 (のとう れお) 攻め 21歳 家政夫
・深屋 天璃 (ふかや てんり) 受け 30歳 恋愛小説家(PN:天宮シン)
5/9/2024, 1:45:34 PM