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鐘の音

始業五分前を知らせるチャイムの音が聞こえる。聞こえる、というのはどこか遠くで聞いているのであって、こんな地点で予鈴がなっているということはもう到底一限には間に合わないということであって、すなわち僕は今遅刻しているのだ。チャイムがなった時点でどれだけ急いでも遅刻には変わらないのだから、労力の無駄でしかない、と走る愚かな民を横目に歩を緩める。
「?……あれは?、」
校門の向こう側、土煙を立てて走る下民共の真ん中を、ポニーテールにまとめた長い黒髪を靡かせながら悠々と歩む少女が見える。
「ハッ!!僕としたことが、意識を失っていた!!」
恋に落ちる福音は、始業を知らせる鐘の音が立派にその役目を果たした、

8/5/2023, 4:34:51 PM