イオリ

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行かないで

あお向けで手を繋ぐ。穏やかな光の中、流れに身を任せて、ふたり、水面に浮かんでいた。

流れの先に、ふたりの間を遮る障害物が現れた。小さな岩山の頭が、ふたりの肩口から割って入り、哀れ、繋いでいた手が離れてしまった。無情な別れ。

行かないで。 遮る岩山に身をこすりつけ、1秒でも早く、と手を伸ばす。

邪魔者を通り過ぎて、またふたりの手が繋がれたところで、わぁーっと歓声があがる。

カワイイ。なんてカワイイの。


日本には2024年現在、3頭のラッコがいる。いずれも高齢なので、繁殖は難しいらしい。もしかすると、日本での最後の3頭になるかもしれない。

水族館の目的のひとつに、種の保存がある。ラッコは絶滅危惧種に指定されている。水族館もなんとか頑張って、保存の方法を探ってはいるが……。

動物によっては、飼育下での繁殖が難しくなる種類があるらしい。ラッコはまさにその代表。じゃあ水族館に連れてこないで、野生のままにしておいたほうが良いのでは?という矛盾も思い浮かぶ。

ただ、数が減少している理由のひとつは乱獲だ。毛皮のためだ。僕は冷たい人間なので、自然の流れで絶滅したなら、それもやむなし、と思っているが、人間が原因なら話は別だ。人間の傲慢を動物に押し付けてはならない。

水族館の努力を応援したい。


どこの水面でもいい。手を繋いで浮かぶ、あの愛らしい姿。なんとかして続いてほしいな。

10/25/2024, 12:04:35 AM